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法令順守?法令遵守?  

 企業の不祥事が続発している。細菌や異物混入ばかりでなく消費期限切れの材料を使用して人の口に入るお菓子や飲料を作っていたお粗末極まりない不二家の不祥事、大型トラックのハブ損傷による三菱自動車の死傷事故、昇降機扉の開閉不良によるシンドラー・エレベーターの死傷事故、一酸化炭素の漏れによる死亡事故を起した湯沸かし器メーカーのパロマ…。いずれも自らの不正を長きにわたり隠匿し続けたことが原因の犯罪である。それを暴けなかった行政の失政責任も見逃せないが、共通するのは全てが「コンプライアンス企業」を宣言して来た企業であり、三菱自工以外は全てオーナー会社の不祥事であることである。

 不祥事の原因をオーナー企業であるところに持って行くつもりはないが、一般的にトップの在任期間が長期に亘ると組織腐敗の因となることが多い。革新力とは使命感であり緊張感である。革新力を衰微させるのが狎(な)れや馴れ合いであることから見ても、価値観の変動が激しい現代においては権力の座というものは緊張感や革新力が持続し得る5、6年が最適期間であろう。人に優れて高邁な人格と強靭な意思力を持っている人でも10年くらいなものではないだろうか。

 コンプライアンス(compliance)という外来語が市民権を得て随分経つが、日本人は本当にコンプライアンスを理解して使っているのだろうか?いろいろ考えていると、どうも疑わしい。そもそもコンプライアンス(compliance)という言葉はコンプライ(comply)の名詞形であるが、コンプライ(comply)の意味は「従う・応じる」という意味で、受身形で使われることもある他動詞である。即ち、「…によって従わされる」という使われ方をされ、「逆らわずに従わされる」という意味合いがある。

 ということは、コンプライ(comply)を日本語に訳した場合、「遵(したが)う」という字ではなく、「逆らわない」という意味を含んでいる「順(したが)う」という字が適切な漢字であり、コンプライアンス(compliance)の適切な訳語は「法令順守」となる。従って、コンプライアンスという言葉からは自主的能動的に積極的に法を守ろうというニュアンスは伝わって来ない。

 ところが、日本では「法令遵守」と訳して使用しているケースの方が多いように思う。何故にこのような使い方をされるようになったのか、つらつら考えると、法律に対する国民性が影響しているのだろうと思う。日本人の国民性は歴史的にも「お上意識」が強く、またわが国では国家権力の民事不介入が原則であり、遵法精神を企業や個人の意思に任せている面があり、法律というものは「守らせる」ものというより自らの意思で「守る」ものという意識の方が強い。法律を守らない「遵法精神」の欠けた人間は悪人という訳である。

 従って、「(個人や企業などは)自主能動的に法律に遵(したが)うべし」という意味で「遵(したが)う」という漢字の方が適切で、日本人の国民性には「法令順守」よりも「法令遵守」という言葉の方が馴染んだのではないだろうか。コンプライアンスという言葉が無法者が蔓延(はびこ)ったアメリカで生まれたことを考えると、権利意識と国家意識の強いアメリカなればこそ、「国家権力によって法律に順(したが)わせる」という強烈な意味でコンプライアンス(法令順守)という言葉が生まれたのだろうと推測している。このように考えるとアメリカで使われるコンプライアンスの意味が明快に理解できる。

 となれば、日本において「コンプライアンス」と言ったり「法令遵守」と言ったりするのが誤りで、これが混乱させる因となっていると言えるだろう。日本においては「法令遵守」と言う方が国民性に合っていると思われるので、正確には「コンプライアンスcompliance(法令順守)」ではなく「オブザーバンスobservance(法令遵守)」という言葉を使うべきだろう。このように「遵」と「順」というたった一文字の漢字の違いだけで、自主自発的に法を守ろうとするのか、あるいは指摘されてから守ろうとするのかという姿勢が、微妙ながらもこれだけのニュアンスの違いが生じる。

 「コンプライアンス(法令順守)」と漢字を併記して使っている企業はこのことをきちんと理解している企業だろうと推測するが、大半は曖昧なままに使っているようにしか思えない。企業の不祥事があからさまになるにつけ行政の目こぼしが目に付くが、行政も企業の「コンプライアンス(法令遵守)宣言」という目眩ましパフォーマンスに惑わされ、企業監督の矛先が鈍った面もあるようにも見える。今、国会では「ホワイトカラー・エクゼンプション(一定年収を超えるホワイトカラーには残業手当を支給しないという法律)」なる法律が論議されているが、日本の法律に意味や定義の曖昧な外来語や和製カタカナ語をみだりに取り入れるべきではない。このような曖昧な法律は市民と行政を混乱させるだけでなく、市民社会に誤った価値観を蔓延(はびこ)らせる恐れもある。

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