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人間は、口によって滅びることはあるが、

耳によって滅びた者はいない。

 7月29日(日)に行なわれた参議院議員選挙において自民党が民主党に歴史に残る雪崩的大敗北を喫した。「トケイヤーのユダヤ格言集」(ラビ・M・トケイヤー編著助川明訳:三笠書房)という本には、ユダヤ人の価値観や思考法の一面を顕著に示すユダヤの格言が集められている。日本人には決して思いつかないような如何にもユダヤ人らしい内容の格言もあるが、日本人の感性にも思わず響くような名言も多い。その中に、「言葉」についての格言があるので紹介しよう。

 この度の選挙では、言葉を最も大事にし言葉の重みを一番知っている筈の国会議員が、安倍総理以下大勢の閣僚が奇弁・詭弁・暴言・失言・虚言を弄し、はからずも彼らが最も得意としている筈の言葉によって自らの無責任さとエゴを如実に露呈させた。特に、安倍総理の「安倍を採るか、小沢を採るか」演説と敗戦後の「首相続投」発言は、明治から100年以上経った現在でも国民の心の奥底に眠っている「武士に二言無し」という大和魂的価値観、即ち「切腹」とか「潔(いさぎよ)さ」を尊ぶ気質を呼び醒ました観さえある。

 即ち、安倍総理自ら国民に「首相の信」を問うて投票を迫った演説であったにも拘らず、敗北が確定したら前言を翻して「首相を続ける」と発言した一連の言動である。この発言に呆気に取られた国民も多かった筈で、これは明らかに首相自ら全国民に対し嘘を付いたことになる。国民は政治家の言葉を信じて国政を任せている。にも拘らず、政治家が理由も無く自らの言葉を翻せば、国民は政治家の言葉が信用出来なくなるだけでなく政治そのものを任せられなくなる。そういう意味で、「教育改革が私の使命」と公言する安倍総理は子供たちに最も悪い見本を示しただけでなく、自らの政治生命を絶つにも匹敵する重大で致命的失敗を犯したと言える。ユダヤの格言に、

  「鳥を籠から逃がしても、また捕らえることが出来るが、口から出た言葉を捕らえることは出来ない」

という言葉もある。自分の言葉が自分に向かう刃となったのである。言葉が命の議員たる者は、自分の発言には細心の注意を払わなければならない。失言や暴言というものは訂正したり詫びたりすればそれで良いというものではない。それでも、速やかに真摯に誠意を示して潔く謝れば、まだ国民は許してくれることもある。ユダヤの格言に、

  「口よりも、耳を高い地位に付けよ」

という、まるで政治家のためにあるような格言もある。人間は、兎角、エゴのためには饒舌になり、他人の言葉を聞こうとしなくなりがちであることを戒めた格言である。これは、NHKや民放の政治家の討論会において如実に現われている。他党の発言に耳を貸さないばかりか、発言を封じ込もうとする光景を、国民は苦々しく見ていることも指摘しておきたい。ユダヤの格言には、

  「他人の口から出る言葉よりも、自分の口から出る言葉をよく聞きなさい」

  「殴られた痛みはいつかはなくなるが、侮辱された言葉は永遠に残る」

という失言や暴言を戒める言葉もある。

 「安倍を採るか小沢を採るか」発言さえ無ければ、自民党の言う「続投」も政局の選択肢のひとつであり得ただろうと思うが、自らまるで「首班選択」選挙かのようにしてしまった軽率のそしりは免れないだろう。安倍総理は無念かもしれないが、総理大臣という地位にいるだけに尚のこと自らの発言の責任は自ら責任を負うべきである。自らの責任さえ満足に取れない首相ということが明らかになった今、賢明な国民は、自らを守ろうとする意識が松岡大臣や赤城大臣の自己保身意識と何ら変わるものではないことを察していることを知らなければならない。

 さもないと、多くの自民党支持者を失い、次の総選挙でも大敗することになる。名宰相の評価のある過去の総理大臣が等しく有していたものは「美学」である。自らの生き様に枷を掛ける「美学」というものが意外と民衆に受け入れられ易いようである。スターやアイドル的要素である「美学」だが、その効果には想像以上に大きいものがある。しかし、首相就任当初から「美学」を感じさせなかった安倍氏は、今となっては潔く「敗軍の将はただ消え去るのみ」でなければ国民が収まらないのではないだろうか。後継総裁には「美学」をお持ちの人になって欲しい人ものである。今は何かと大変だとは思うが…。勿論「美学」に係る費用は自分の懐負担であることは言うまでも無い。

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