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Brand[ブランド]の変遷 

 世はまさにブランド・ブームである。スーパーマーケットに行けば、生産者の顔写真や氏名までもが袋に印刷されている商品が並んでいるし、昔には思いもよらなかった焼き芋用の芋までもがブランド化されて並べられている。最近は「名門」や「名家」や「家柄」を指す意味でも「ブランド」という言葉が使われたりする。本来、ブランド(BRAND)とは、「銘柄」や「商標」、「焼印」や「烙印」を意味するものだが、時を経るにつれブランドの意味も拡がって、近年は、産地や歴史や個人までもがブランド化される時代となった。

 ブランドの発生を歴史的に見ると、元々は、イギリスやヨーロッパの貴族たちが自分の牧場の家畜などに由緒ある自家の「紋章」や「名前」等を押した「焼印」や「烙印」を意味する言葉で、これに端を発している。元々はひと目で他者との区別が出来るようにしたアイデンティティー・マークである。焼印した紋章や名前を日常的にあるいは邸宅内でのパーティー等の際に使用する食器やバッグなどの品々にマーキングしていたものが、商品ブランドやメーカーブランドに発展した。

 これらの商品は、お抱え職人やご用達元職人によって特定の貴族ファミリーや地主一族の日用品や招待客等への贈り物用などに作られていたもので、元々、販売用の品物ではない。作り手と使い手の思いと満足心が籠められて長い時間を掛けて完成されたものである。従って、コストという概念は無く、コストを度外視し手間暇掛けて品質と嗜好性が究められたという品物である。そういう訳で、昔の品物には今でも美術工芸品としての骨董的価値がある訳である。従って、製作数量も限られており部外者には行き渡るものではなかった。

 これを近代になって名門や伝統を銘柄にして一般向け商品として売り出したところ、思わぬ好評を得たことがブランド品商売の始まりである。当時は製作数量も少なく、手間も暇も掛かってコストも高く、必然的に価格も高価に設定された。にも拘らず、希少品という価値と品質の良さが評判を呼び、ジワジワとファンが増えてブランド・ブームを起こす因となった。この動きに更に拍車を掛けたのが、「ブランド品をお求め安い価格で、どなたにも」という発想で大量販売し始めた近年の「ブランド商法」ということになる。勿論、誰もこんなことは明言していないが、言い換えれば、「安く作って程々に高く大量に販売しよう」という商法である。

 物造りの思想は元々のブランドとは程遠くなっているが、ブランドとは身元と同じである。身元を明らかにすることが信用を得る大きな要素であるように、ブランドが購買者に安心感と信頼感を醸成しているのは間違いない。安全と安心の象徴としてブランドを捉えた購買者が銘柄や製造者に拘るようになった。大量製品ながらも新しい「ブランド」という価値として勝手に歩き出している。

 商品に対する購買者の安心感とは、いつでも気軽に苦情が言えることであり、返品交換してもらえることであり、修理して貰えることである。価格は、その担保された信頼感と満足感が反映されたものとなる。従って、昔のブランド品の価格はビックリするように高価であった。商品や銘柄や企業名がブランド化することについて違和感はないが、元々、ブランドというものは、大量仕入れ大量販売という現代のチェーン店商法には物理的に合うものではない。地域や材料に拘れば、製造期間や原材料には限界があり、大量販売に堪える商売ではない。後にブランドの概念が不明になるほどに広範囲に展開されることになる。

 現在も、銘柄の知名度と嗜好性の強さがブランドを支えていると言える。このような実績を見て、何でもかんでもブランド化する動きが活発となったのであろう。しかし、白い恋人、赤福、比内地鶏、御福餅、吉兆、ミスタードーナツ等々、一流ブランドとしての評価を十分得ていると思われる商品が平然と「偽装」を行なっていた。ブランドの最大の価値である「信用・信頼」という絆を自ら断ち切ったのである。ブランド品さえも信用できないことを知った消費者が、今後、どういう購買行動をするのかが予想できなくなった。恐らく、賢い消費者は巧妙に隠された大量販売「ブランド」の本質を見たのではないだろうか?

 ブランドをマーケッティング的に見ると、商品とマーケットの関係は、マーケットの成熟度、即ち購買者の商品知識度・認知度に大きく関係する。発展途上国のようなマーケットが未成熟な市場では、機能要求が最も重要視され、最大の購買動機となる。購買者層の購買力が大きくなると、機能要求から趣味嗜好的要求に変わり色やデザインが購買を決める大きな要因となり、メーカーや商品名、デザイナーなど、即ち「ブランド」志向が強まる。

 このことは購買者層側から見ても言える。幼児期、少年期は親から与えられたもので満足するが、自意識が芽生える頃は「人と同じもの」を欲するのが普通である。ブームに流される年代である。自意識が確立した年代になると、人と同じものはむしろ嫌がり、自分独自のものを欲するようになる。オリジナリティーやアイデンティティーの年代である。デザインや材料を真似た「偽物」が氾濫するのはこの時期である。

 マーケットが成熟段階に入ると、成長期に溢れていた競合商品やマガイモノ(紛い物)商品の淘汰が終了し、偽物も減り安定する。嗜好対応度や材料品質によって価格差は生じるが、商品的には機能的にも品質的にも大差が無くなる。使用面では、価格の高い高級品なりに、あるいは低価格商品なりに大差無いが、見た目の差が価格の違いとなる。即ち、マーケットではブランド志向は減退し、品詞と機能性さえ満たせば「ノーブランド品でもよい」という消費者が増えることになる。

 一般的には、購買者の購買動向傾向は、マーケットの成熟度に沿って「ノーブランド品→ブランド品志向→ノーブランド品」という経過を辿る。現にヨーロッパの先進国やアメリカでは購買者のブランド志向度は日本より遥かに低いし、反対に、発展途上にある上海や香港などは日本以上にブランド志向が強いことがこのことを示している。だが、最近の食品不祥事やマンションの耐震偽装等の詐欺紛いに見られる商道徳の欠如は、いわゆる「ブランド」とは違った意味でメーカーや商品名や地域や人に拘る人が増えて来るかもしれない。そのキーワードは「安心」である。自分の「安心」を買うために、自分のブランドを持つ人が増えるのではないだろうか。


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