以久遠氏 Beauty,Business & Favorites     ビジネス座談A     VOL-07/1999.4.1号

お客さんは誰から買うか?  

 貴方が営業マンなら、売れる仕組みを研究することも必要だが、その前に、人はどういう心理状態で商品を買うか、という消費者の心理の揺らぎも是非研究しておいたがよい。現代のように、商品に機能や品質の差がなくなり、似たようなものが溢れている時代においては、消費者はどの商品を買おうかと選択に迷う。商品情報が溢れているので、自分なりに研究して商品を決める人もいるが、殆どの人は逆に面倒くさいから営業マン任せにしてしまう。

 中には、商品が気に入らなかったとき交換してもらうのに都合がよいから、営業マンに任せるという不埒なお客さんも偶(たま)にいるが、消費者が物を買おうとするときの心理を分析すると、最初は、ある目的を達成するためには「こういうものが欲しい」という欲求が購買動機となる。次の段階は、カタログを見たり、現物を見たりして商品の選定作業を始める。そして数種類の商品に絞り込む。その次の段階は、どこから買うか、あるいは誰から買うかである。商品によっては、販売会社やメーカーにも興味を持つ。会社や営業マンに移るのである。

 今は大抵の商品がどこからでも買うことが出来るので、応対する営業マンの言動や態度によって左右されてしまう。特に、女性には、ショッピングをレジャーや趣味と同じレベルで考えている人も多く、楽しく心地よく買えるということも大きな要因となるのである。失礼があったり、熱意が乏しい場合、その営業マンから買おうという気持ちは薄れる。

 これは、ハワイのおみやげ屋の店員さんとお客さんの価格交渉のやりとりを見ているとよく分かる。店員の応対が悪い店や信用できないような店員のいる店では、大抵、お客さんは店員を冷やかし、商品は見物するだけで買わずに去る。高値か偽物を掴まされ、騙されはしないかという不安感を抱く人もいるし、どこでも売っている商品だから別の安心できる店で買おうと考える人もいる。

 人の心の動きは微妙なもので、誰でも「騙される」ことには生理的な嫌悪感を抱く。騙された自分を腹立たしく思う人もいない訳ではないが、多くは騙したという相手の行為が許せないのである。相手を信頼できれば、価格が少々高かろうが「いい店で買った」あるいは「いい人から買った」ということで満足できるのである。お土産品のように、どの店で買っても大差ないような商品でもそうだが、ブランド品のような高級品を買う場合にはこの心理が強く働く。従って、メーカーの直営店か、店員さんが信頼できる店で買うお客が増える。どうせ買うなら、気分よく買いたいのである。

 自分自身を購買者に置き換えて考えてみればよく分かる。信用できそうもない営業マンから買うだろうか?どんなにいい商品であっても、躊躇するだろうと思う。商品は信用できても、価格やサービスに不安が残るのである。やはり、商品を選ぶより先に先ず最初に営業マンを選んでいるのである。信頼できる人間かどうか、営業マンは値踏みしされているのである。

 ある人が営業に行ってもなかなか買って貰えないのに、他の人が顔を出したら難なく買ってもらえた、というようなことはしょっちゅうある。これは、その営業マンの腕がいいのでも何でもない。最初の人は信用されなかっただけで、後の人が信用されただけのことである。信用が、お客さんにこの人から買おうという決心をさせただけなのである。

 このように、消費者に購買行動を起こさせることの上手な人が名セールスマンということになる。では、自分を買って貰うとは何を意味するか、ということになるが、それは全人格的とまではいかなくても、自分自身の人間性をお客さんに信用し信頼して貰うことに外ならない。これを「先ず、自分を売る」と言う。そのためには、先ずは誠意のあるコミニュケーションが出来なくてはならない。

 こうして、自分の存在を認めて貰うという存在感のある営業が始まる。それも出来るだけ短期間の内にそのように運ばなければならない。「昨日来た営業マンの名前は何と言ったっけなぁ」とお客さんに頭を傾(かしげ)させるようでは落第なのである。「この人と付き合っていれば損ではない」あるいは「得になる、自分のためになる」という好印象をお客さんに抱いて貰えれば長く付き合うことができるし、安定取引先となる。ビジネスにおける好印象とは調子の良さではなく、誠意であることを肝に銘じなければならない。


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