∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 以久遠氏 Beauty,Business & Favorites   巻頭   <119>VOL. '0811/ 2008.11.01 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

Be Gentleman  

 先日、テレビを見ていて初めて知ったが、「Boys, Be Ambitious:少年よ、大志を抱け」の名言で有名なクラーク博士(49)、札幌農学校(北海道大学)の実質的な初代校長(肩書は教頭だが、英文肩書はPresident)に招聘されて赴任したとき、北海道開拓使長官の黒田清輝から「校則はこれで良いでしょうか」とくどくどと幾条もの条項を書き並べた学則案を見せられて、即座に

  「多過ぎる。一条あればよい」

と答えたという。その一条というのは「Be Gentleman:紳士たれ(1876開校時)という言葉だったそうである。簡潔で実に分かり易い。クラーク博士の言う紳士とは、「紳士たる者、定められた規則を守ることは言うまでもない。しかし、それは規則に縛られて行動することではなく、自己の良心に従って行動すべきものである」ということである。

 「Be Gentleman:紳士たれ」と似た言葉は沖縄にもある。琉球王国の首都首里(現在の那覇市)に観光名所となっている「守礼の門」という中国風の門があるが、その門に「守禮乃邦」と書かれた扁額が掲げられている。琉球王尚真は、「琉球は、武力よりも礼節を重んじる国である」ことを国是として自らと国民に宣言していたのである。わが国が、北も南も礼節を重んじた武士道の国であったことが分かる。残念ながら、今の日本人には「Gentleman」たる男子や「Lady」たる女子は滅多にお目に掛かれなくなった。

 私は1967年に九州の片田舎から上京して慶応義塾大学に入学したが、日吉校舎(横浜市港北区)の教室で、ある先生が授業の冒頭に語った言葉を今も忘れない。日吉というのは東横線の神奈川県北部の小さな町で、殆どの学生が東横線を利用して通学をしていた。先生は、

  「君たちは東横線の電車の中で、吊り革にグニャッとしただらしない格好をしてぶら下がっていないか?」

と言った。この先生は何を言いたいのだろう?受験勉強から解放されたばかりの、しかも田舎からポッと出の新入り学生には理解に苦しむ言葉であった。先生は続けて

  「塾生(慶應の学生のこと)たる者、吊り革には背筋を伸ばし直立して掴まりなさい」

と。「塾生たる者」という言葉にピリリとした厳粛さを感じたが、要は「紳士たれ」と言っているのである。幼い小学生にも理解できる、稚拙ながらも簡潔にして平明なサジュスチョンであった。なるほど、慶應義塾大学とはこういう教育方針の学校なのか、「慶應ボーイ=Gentleman 」と理解し納得した記憶がある。クラーク博士が第一回生24人の学生たちに「Be gentleman」と教えてから90年後に慶應の先生が同じことを言っていたことに驚いている。

 しかし、一昨日の報道によれば、その慶應にも大麻所持の犯罪者がいるというのだから、地に落ちたものである。更に、敬虔なクリスチャンであったクラーク博士は招聘を受諾した後、自分の役割について、

  「私が日本に伝えるのはアメリカの進んだ技術ではない。技術を生み出すのは人間である。人間が自然と生きていく中で技術
  が生まれ、機械が発明された。大切なのは自然と共に生きようとする精神、スピリットである。それこそが開拓者魂、フロン
  ティア・スピリットである。私はそのフロンティア・スピリットを日本に伝えに行くのである」

と述べたそうである。この言葉を背景にして「Be gentleman」という言葉が生まれたのである。技術を教えれば、自然と「ああせい、こうせい」あるいは「ああしては駄目だ、こうしなさい」という「HOW-TO」教育になりがちなことを戒め、「自分で考える」ことを教えたのである。学生にしてみれば手取り足取り教えて貰った方が楽だが、何を為すべきで、何を為すべきでないかを自分自身で結論を出すというのは、一見自由に見えて、返って厳しい教育であっただろうと推測する。教育の不毛が叫ばれている今、社会が最も必要としているものは「Gentleman」意識と「Lady」意識であるが、それには先ず、教育の第一線にいる先生方自身と、先生をバックアップしなければならない両親たち自身が「Gentleman」精神や「Lady」精神を自覚し培うようにしなければならない。

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