以久遠氏 Beauty,Business & Favorites    ビジネス座談A   VOL-10/1999.5.15

接待とは、舞台演出なり 

 接待とは、大袈裟に言えば演劇みたいなもので、接待役とは監督だと思えばよい。観客は、満足という時間を求めて舞台見物に来ているのである。従って、監督には舞台を盛り上げ、観客を満足させる演出が求められる。そして、満足を演出するには、適当な舞台と適当な小道具と適切な話題が必要となる。ここでは、小道具、即ち食事について述べてみたい。

 たとえ昼飯時のひとときでも、お客さんが満足する時間を提供出来るようになれば名接待役である。どんなに立派なレストランでも、どんなに美味い食事でも、根暗な接待になっては意味をなさない。雰囲気は明るく、お客さんの食欲を昂進させるような食事でなくてはならない。

 先ず、レストランに入って何を注文するかであるが、食事は勝手に注文してはならない。お客さんに、満足の時間を提供するのであるから、お客さん自身に選んで貰うのが原則である。時々、まるで自分しか食べたことがないかの如くに「これは美味いですよ」と強引に勧めて勝手に注文する人がいる。言語道断である。お客さんの中には、内心では「この人はこれが食べたくて私をここへ連れて来たんだな」と考える人もいる筈である。怒り出すお客さんはいないだろうが、少なくとも満足はしていないだろう。

 「この店は、これが美味いですよ。食べてみませんか?」ならばよい。表現の仕方や勧め方ひとつで印象はがらりと変わるのである。何が美味いかは、何を食べるかはお客さんが決めることである。他人の嗜好にとやかく関与することは避けなければならない。お客さんにとって最高の御馳走とは、お客さん自身が今一番食べたいものである。それがたまたま、ラーメンかも知れないし、ラザニアかも知れない。中にはお寿司が嫌いな人もいるし、健康管理上、奥さんから肉類を禁じられている人もいる。珍味に等しい蟹や海老を食べると、ジンマシンが起きる人もいる。

 従って、お客さんにメニューを渡して「お好きな物をどうぞ」と選んで貰うこととなる。お客さんが、「お任せします」ということであれば、「嫌いなものはありませんか」と聞いて注文することになる。このとき注意しなければならないことは、「ご老体には歯に優しいやわらかい食事を、妙齢の女性には上品に映る食べ易い食事を」ということである。この気配りが食事接待の基本ルールである。

 お客さんがメニューを見て、「Aをお願いします」と答えたら、「ボーイさん、Aを二つお願いします」と同じ品を注文しなければならない。同じものを注文するという点がミソで、これがお客さんと短時間で打ち解けるコツである。1度や2度の接待ではお客さんも、相手が食事の品まで自分に付き合ってくれているとまでは気付いて呉れないが、3度目位になると大抵の人が、「彼は食事の品まで気を使って呉れているな」と気づいてくれる。

 この、同じ品を三度注文することに大きな意味があるのである。親しさを表わすのに「同じ釜の飯を食った仲」という言葉があるように、共通の体験を共有することに意義があるのである。将来、必ず何らかの効果を現す。さり気ない気遣いほど、心にしみるものはない。自分が食べたいものを勧めるようでは落第である。

 アルコール類やコーヒー紅茶等の飲み物にはこういう効果はないが、食事にはこのような不思議な効能がある。それも、同じ食事の方が効果は大きい。是非、一度試して見られることをお勧めする。その際、「この人は会社の費用で、俺をダシにして高いものを食べているな、呑んでるな」とお客さんに感じさせるようでは落第である。一緒に食事をしたり、接待したりする資格はない。社用族は、端から見ていても余り恰好の良いものではなく、却って相手にはいい印象を与えないものである。

 ゴルフも、一緒に食事をするという行為が含まれているので親睦効果は大きいが、近間で短時間に接待できる手軽さという点では、何と言っても食事に勝るものはない。


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