PROFILE of MR.IKUO   以久遠氏の芸術紀行    VOL-10/1999.5.15

関東の民間美術館

 近年、地方自治体が、観光客誘致のためなのか、県民の文化意識を高揚するためなのか、あるいは単なる箱物行政の一環としてか、自前で美術館を持つところが増えている。箱物を造り過ぎて財政が破綻しそうな自治体もあると聞くが、人々が美術工芸品等に触れて心の豊かな人間になることは歓迎である。

 人間は豊かな物質生活に満足すると、次の段階として、人間の欲望は「ARTを求める」ようになると言う。しかし、本当に豊かになった証なのであろうか。我が国は世界中でも美術工芸品の多い国だと思うが、その割には一般庶民の美的感覚や歴史的知識は貧しいような気がする。

 某テレビ局の「何でも鑑定団」という番組がヒットしているのはその所為だけではないと思うが、美術館や博物館が増えることはいいことである。バブル経済が美術館や博物館を各地に残して呉れたようなものであるが、関東圏には雨後の筍のように、丸でひしめき合うように美術館や博物館が出来た。箱根の強羅や長野県の美しヵ原にはフジサンケイグループの屋外美術館がある。中でも、箱根強羅のピカソ美術館は素晴らしい。

 関東からは少し外れるが、信州は昔から美術館の多いところで、いわば美術館のルツボのようなところである。 松本、美しが原、長野、諏訪、岡谷、蓼科など長野県のいたるところに、背景に日本アルプスの雄大華麗な自然を取り入れた小綺麗な専門美術館がある。その土地の出身者や縁のある芸術家の作品が納められているところが多いが、蓼科のマリーローランサン美術館のように、長い年月を掛けて蒐集したものを展示しているところもある。

 熱海には、尾形光琳の「紅梅白梅図」を有していることで有名な世界救世教が経営している「MOA美術館」がある。「紅梅白梅図」の本物は毎年2月の一ヶ月間だけに公開される。それ以外の月は、常時、模写品が展示されているが、本物と見まごうばかりの豪華な二双屏風である。このMOA美術館は、世界のいろいろな作家の作品が数多く集められていることでよく知られている大規模美術館で、熱海の観光コースにも組み込まれ、年中、老若男女の閲覧者で混雑している。

 それにひきかえ、熱海から左程離れてないにもかか拘わらず、フランス式庭園の箱根公園の前にある陶器博物館は閑散としたものである。一日の来館者数は100名にも満たないのではないだろうか。考えようによっては、その分じっくりと時間をかけて見学できるが、世界中の窯元跡から出土した陶磁器の破片が展示してある。

 展示品の質は極めて高いのだが、破片や壊れたままの陶器が多いので、余程の陶器好きでないと見ても楽しくないだろう。見るからにお茶の先生みたいな老婦人の団体さんが目につく博物館である。こういう博物館であるから、観覧者の中には講釈好きの人も多く、まるで知識をひけらかすように喋り捲っている人もいる。未熟者にとってはそれも有難く、聞いているだけで勉強になる。

 都内にも、港区、中央区、渋谷区、目黒区などには沢山の民間の美術館があるが、意外に知られていない。松岡美術館、大蔵集古館、サントリー美術館、出光美術館、ブリジストン美術館、西武博物館……。事業で大儲けをし、功なり名を遂げた古の財界人達が財力にものを言わせて世界中から集めた名品が展示されている。

 中でも、静嘉堂(せいかどう)文庫は特筆ものである。世田谷区郊外の緑に囲まれた森の中に、岩崎小弥太氏の別荘だった建物を改造した美術館が建っている。蒐集品の中に、日本に三つしかない国宝の「油滴天目(ゆてきてんもく)茶碗」があることでも有名である。三菱財閥の創始者の岩崎弥太郎氏や息子の小弥太(こやた)氏が、お金に糸目を着けず掻き集めた美術品であるから、質が高い。世田谷には外に、東急財閥を興した五島慶太(けいた)氏が蒐集した美術品を展示している五島美術館がある。静嘉堂文庫と並んで、ここも質が高い。

 丸の内のビル街には、出光石油の出光美術館、東京駅の八重洲にはブリジストンタイヤを興した石橋正二郎氏の石橋美術館。青山霊園の近くには武蔵大学を作った根津財閥の根津美術館、新橋には松岡美術館、赤坂のサントリー本社ビルにはサントリー美術館、港区の虎の門にはホテルオークラの中にある大蔵財閥の大蔵集故館、等々国宝級の美術品を集めている美術館がキラ星の如く輝いている。個人の美術品蒐集家としては、三菱の岩崎に対して、佐竹本三十六歌仙絵巻で知られている三井物産の創設者益田鈍翁(どんおう)が有名である。


Enter From 検索  Update & Back-number index   HOME  Tour  Gourmet  Culture  Business01  Business02  Business03  Profile