以久遠氏の Beauty,Business & Favorites 文化人間学 VOL-11/1999.7.1号
賢者は歴史に学び、愚者は体験に学ぶこの言葉は、社会主義を弾圧し、保護主義を採った政治家であるドイツの鉄血将軍ビスマルクの有名な言葉である。ビスマルクを特に信奉している訳ではないが、好きな言葉のひとつである。
歴史に学ぶということは、具体的には本を読むことであるが、言い換えれば先人達の事跡に学ぶことである。先人の知恵と経験に学ぶことなのである。本で学ぶということは、先人たちの幾多の経験を疑似体験することであって、ケーススタディー学習ということになる。理論にばかり頼っていると、結果として現実から逃避していることになりがちである。
しかし、世の中には読書から学ぶより、耳学問の方を好む人の方が多い。それだけの理由ではないだろうが全国的に講演会が流行している。段々、「あなた読む人、わたし聞く人」という時代が来かかっているのかもしれない。
自分の経験でしか物事の判断が出来ない人と、その逆に理屈でしか物事が判断出来ない人が意外と大勢いる。足して二で割ったような人であれば申し分ないのだが、偏ってしまうと、どちらも肩肘張った理屈屋になってしまう。依怙地になった人間関係ほど扱い難いものはない。困った人達である。
物事の判断を人間の性格で片付ける気にはならないが、現実的には、ベーコンが「説き伏せるには大胆な人を、説き勧めるには話の上手い人を、調査や観察には巧妙な人を、おいそれと片づかない仕事には強情な一筋縄では行かない人間を用いるがよい」と言っているように、経験が重視される物事と理論が重視される物事とに分けて人を用いることも大事なことだろう。ある意味では、人事の要諦と言えるかもしれない。
しかし、管理者がこれであっては困る。日々、必ずしも経験法則だけでは処理できない問題が起こるのがビジネス界である。従って、管理者に最も要求される資質は、目の前の現象を客観的に詳細に分析する能力と、合理的に公平に対処する能力である。これらの分析と対処には、共に豊かな経験と学究的な理論の礎が要求される。
分析力がない人は、どうしても経験に基づいた直感に頼ってしまいがちで、見る幅が狭く、そのためにアバウトで偏った処理をしてしまう可能性が大である。これでは、的確で本質的な解決策が図られるとは言いい難い。経験にばかり頼るということは、新しいことへの挑戦を拒否しているということを意味することに気が付かなければならない。
ビジネスは、挑戦というリスクによって利を得るものである。現象は、真っ正面からクールに見据えなければならない。そして、経験則で処理できない未知の問題には、新しい知識と新しい発想を持って最善策を講じなければならない。常に、新しい発想と新しい挑戦が要求されるのである。歴史に学び新しい発想の種子を得るためには本を読まなければならない。