二刀流の剣豪、宮本武蔵が著した兵法書「五輪書」は、含蓄のある言葉で書かれた実践実技の書である。平易な文章で書かれた薄い書なので、徳川幕府の武芸師範であった柳生家の兵法書「兵法花伝書」に比べると、哲学的表現は多いが分かりやすいし読みやすい。
武蔵は「二天一流」という二刀流剣術の流派を編み出したが、その極意を、
『構え五つに分かつと言えども、皆、人を切らん為なり。構え五つより外はなし。
いずれの構えなりとも、構ゆると思わず、切ることなりと思うべし。』
と、述べている。いわゆる有名な「構えありて構えなし」という武蔵流兵法の極意である。武蔵は「五輪書」の中で「構える」ということについて述べているが、「構える」とは、「城を構える」とか「身構える」というように、己の身を守ろうとする心で、相手に対して壁や溝を作ろうとしていることを意味する。
これでは、まだまだまだ究め悟っているとは言えないのである。「構えなし」の極意、すなわち平常心や自然流の域に到達しなければならない、と言っているのである。真剣の気迫が伝わって来て、思わず身が引き締まる思いがする。
「二天一流の兵法の道」
第一に、邪心を持たぬこと。
第二に、二天一流の道をきびしく修行すること。
第三に、広く諸芸にふれること。
第四に、さまざまな職能の道を知ること。
第五に、ものごとの利害損得をわきまえること。
第六に、あらゆることについて、ものごとの本質を見分ける力を養うこと。
第七に、目に見えぬ本質をさとること。
第八に、わずかなことにも、注意をおこたらぬこと。
第九に、役に立たぬことをしないこと。
と、 素直な心で、何事についても幅広く、しかも深く学び、細心の注意を払って本質を極めるべし、と心構えを述べている。今風に言えばゼネラリスト志向であるが、これはそのまま現代サラリーマンへのアドバイスとしても通じる。