諏訪湖の畔(ほとり)に、アールデコ調の繊細で華麗なガラス細工を、まるで室内装飾品を飾るかのように美しく展示している鉄筋コンクリート造りの瀟洒(しょうしゃ)な美術館がある。SUWAガラスの里のルネ・ラリック美術館というこの美術館の建物にはガラス細工を販売している店と喫茶店が同居している。
美術館の隣にはガラス細工を販売している部屋があり、かなり広いスペースがとってある。その広いスペースはガラス細工品を展示即売しているコーナーと、ガラス細工の体験体験コーナーに分けられ、先生の指導を受けながら実際に自分で作ることも出来る。市民参加型のユニークな美術館といったところである。展示即売しているコーナーにはガラス細工が展示してあり、店内の照明が色とりどりのガラス細工に反射して実に爽やかで華やかである。小さな動物の細工から大き目の花瓶などのガラス器が所狭しと並べられている。見て廻っているだけで心が澄んで来るような気がする。
そして、その部屋の裏側に、簡素だがそれでいて洒落た雰囲気の喫茶店がある。さして広い喫茶店ではないが、天井が高いのでロビー的な雰囲気が漂っていて見物に疲れた体を癒してくれる。博物館や美術館というのはエアコンのせいか、結構、喉が乾くし、一通り見て廻ると、意外と歩行しているので足も疲れる。一休みがてらに喉を潤したくなるもので、コーヒーの好きな人は一杯のコーヒーが欲しくなる。コーヒーを喫(の)みながら、今見てきたガラス美術品の数々を思い出しながら感動を語り合うのもいいものである。
美術館には、赤、青、黄、緑、水色などの淡色や原色のガラス細工が展示してある。もちろん、アールデコの作品やガレの花瓶も展示してある。それらに似せた花瓶や動物や肢体のガラス細工など、色とりどりのガラス器は如何にも夏向きで清涼感が漂っている。一時、暑さを忘れさせて呉れ、高原の爽やかな世界に誘って呉れる。
中でも、動物や少女の顔や肢体を描いたものが特に素晴らしい。フランスのアールデコの作品は、以前、目黒駅の傍にある迎賓館で公開されたことがあるが、その時も大変な反響を呼んだ。観客を感動させた代表作は、固くて冷たいガラスを使って少女の可憐な肢体と優しい表情を繊細に写し出した作品である。乳白色の肌合いも見事だが、髪の毛の一本々々までが実に丹念に表現されている。
猫や魚などを題材にしたものもあるが、やはり人の心に感動を与えるのは少女の肢体をガラス細工の中に表現したものである。ガラスという固い材質でありながら、ほっぺたや乳房などは、触ればプクンと引っ込むのではないかと思えるくらい柔らかな肌の感じが出ていて、とてもガラス製品とは思えない。逆に、落とせば割れるガラスの危うい儚(はかな)さが、花開く前の固い蕾(つぼみ)のような少女の繊細なあどけなさを濃やかに表現するのに適しているのかも知れない。実に素晴らしい芸術である。
芸術とは、人々が心の奥底に無意識のうちに求めている欲求を、大衆の眼前に現実のものとして描き出すことではないだろうか。ガラスのような冷たくて固い素材を使って柔らかさを表現しようという発想は並みな感覚ではない。到底、芸術家でなければ発想しないだろう。芸術家は、素人が想像だにしないような、あっと驚くものを創り出す。