
群馬県は、蓼科蕎麦に負けない蕎麦の産地である。関越高速道路を前橋インターで降りて、国道17号線バイパスを前橋に向かって走る途中、前橋まであと数分という辺りの右側に「山賊蕎麦」という、珍しい名前の看板を掲げた蕎麦屋さんがある。バイパスの道路よりも低いのでちょっと見えにくいが、頑丈な田舎家造りのごつごつした感じの素朴な建物である。
「山賊?蕎麦?いったいどんな蕎麦だろう?」
???。一旦、通り過ぎてしまったが、「山賊」という名前に惹かれてUターンして、野次馬根性を剥き出しに思わず入ってしまったのが最初である。駐車場はさほど広くはなかったが、地方の古い民家を解体して復元したような構えの大きい二階建ての店である。残念ながら看板が小さいのと、建物が道路より一段低いところにあるために、余程注意して見ていないと見落として通り過ぎてしまいそうである。その後、前橋に行った時には時々訪れた。
店内に入ったところに、透明ガラスで仕切られた部屋があって、その中に小さな水車小屋が設(しつら)えてあった。その水車がゴトゴト、ゴトゴトと素朴な柔らかい音を立てて、実際に蕎麦粉を挽いていた。この店の蕎麦は全てこの水車で挽いたものだそうであるから、正真正銘の手打ち蕎麦の店である。
店の名前の由来は聞きそびれてしまったが、メニューを手にして見ると、そこにも店名と同名の「山賊蕎麦」というソバが載っている。1800円くらいだったと思う。決して安くはないが、折角だからと山賊ソバを注文した。待つこと暫し、農家の主婦といった感じのオバサンが山賊ソバを持って来た。
三色の蕎麦に、山菜や海老など沢山の具が付いている。蕎麦は太めで大小あり、色は鄙びて黒っぽく、お世辞にも小奇麗とは言えないが、如何にも固そうなごわごわした風合いが何とも言えない。柔らかい蕎麦はソバらしくないので、先ずは合格である。手打ち独特の、挽きの強い麺の歯触りも捨て難い。蕎麦はやはり手打ちに限る。
新潟県小千谷地方の「へぎ蕎麦」も豪快で、男のソバという雰囲気があるが、山賊蕎麦も捨てたものではない。特に、ソバつゆに伊勢エビを丸ごと入れて食する蕎麦は贅沢な逸品である。しかし残念なことに、伊勢エビが高価になったせいか、最近はメニューから消えてしまった。誠に惜しい。
「山賊蕎麦」の店を出て国道17号線を更に前橋に向かって走ると、前橋市境のすぐ手前、左側に巨大な水車を店の看板にしている蕎麦屋があるが、この店の伊勢エビ蕎麦も美味かった。しかし、この店も今は伊勢エビ蕎麦はやっていない。