長野、蓼科高原
と 「マリー・ローランサン美術館」梓(あずさ)川で有名な長野県は、また「日本の屋根」とも呼ばれ、美しヶ原、霧が峰、菅平(すがだいら)、志賀などの名高い高原が数多くある。冬季にはスキー場となるところである。マリー・ローランサン美術館のある蓼科(たでしな)高原は、東に八ヶ岳、西に霧が峰と白樺湖、北に蓼科山、南東に諏訪湖という著名な観光地に囲まれるように位置している。
蓼科高原は、数ある長野県の観光地の中でも有数の風光明媚(めいび)なところとして有名で、澄んだ風と白樺林の爽やかな白と緑が印象的である。特に、ススキが銀色に輝き枯草が黄金色に色付く秋が素晴らしい。蓼科へはJR中央線の茅野(ちの)駅で降りて、だらだらと一直線に続く緩やかな登り坂の蓼科有料道路を北東へ登る。
道々、心が洗われるような清々しい景観が続く。昭和初期には、伊藤左千夫や堀辰雄など多くの文人が訪れたり住んだりしたのが理解できる。名残りに、道路の傍らの到る所に彼らの文学碑がある。文学好きな人にとっては、長い坂道をのんびり時間を掛けて歩いて登って来るのも、文学散歩が楽しめて一興かもしれない。しかし、数時間の歩行を覚悟しなければならない。
茅野から10kmくらい登ったところに、マリー・ローランサン美術館のある「ホテルヴィラ蓼科」という瀟洒(しょうしゃ)な白亜のホテルがある。蓼科高原の玄関口といった辺りである。「ヴィラ蓼科」の前を過ぎて更に奥へ登ると、白樺湖で有名な池の平や、スキーやハンググライダーで有名な車山(くるまやま)高原に至る。車山高原には、新田次郎の自然破壊小説「霧の子孫たち」の題材にもなったビーナスラインを通って山頂まで車で行くことが出来る。
マリー・ローランサン美術館を訪れるには、最寄りのJR中央線茅野駅からバスもあるが、ホテルの送迎バスを利用するのが便利である。歩いて行けないこともないが、だらだらと長い登り坂を2時間くらいは登らなければならないだろう。駅の西側から有料の蓼科道路を北東へ真っ直ぐ登って行くと、国道152号線に出る。
そこを突っ切って蓼科湖へ向かって更に登って行くと、茅野市北山蓼科という所である。右側に「ホテルヴィラ蓼科」がある。都会的な洒落たリゾートホテルで、ホテルの裏山には小さいながらも自前の人工スキー場も持っている。美術館はそう大きな規模ではないが、そのホテルの中、玄関の左側にある。ホテル玄関の脇にも美術館への入口があり、通りがかりの人も自由に見学できる。
マリー・ローランサンはフランスの女流画家で、墨絵のようなタッチの淡く美しい水彩が日本人の好みに合うのだろうか、この数年の間にめきめきと評判が高まった。殆どの絵が数人の若いパリジェンヌの姿を描いたものである。デザインも、色使いも、極限まで単純化し、オブラートにくるんだような柔らかい色使いが何とも言いがたい。特に、淡いピンク、スカイブルー、イエローグリーンと白色の使い方が独特な水彩画タッチで、女性の静かな優しさを見事に表現している。
私は高校生の頃デザイナーを目指していたが、彼女のデザインのような絵画に何とも言えない魅力を感じていた。女性らしい柔らかな線と、淡い色合いが何とも言えなく馥郁(ふくいく)としていて、見る者の心を優しい気持ちにさせて呉れる。デフォルメした女性を淡いピンク色と淡く明るい青色を使って綺麗に表現する独特で特徴的な絵である。
ホテルの支配人さんから聞いたところでは、社長さんがマリー・ローランサンの大ファンで、ホテルにマリー・ローランサン美術館を作ってしまったのだそうである。彼女がまだ無名の20代の頃からの熱烈なファンだそうで、こつこつと蒐集(しゅうしゅう)されていたのだそうである。それがいつの間にか600点以上にもなっているらしい。マリー・ローランサンの絵画のコレクションでは世界でも最大級のものである。マリー・ローランサンの評価が高まるにつれて、この美術館も世界的に有名になっている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ※「ホテルヴィラ蓼科」は経営者が替っているようで、現在は「アートランドホテル蓼科」という名前に変わっている。
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