以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      ビジネス-1-     VOL.16 / 2000.03.01号

格 

  ここでは、マーケットから高い評価を得ている特許商品の場合の価格戦略について述べてみたい。新商品というのは、その商品がマーケットから高い評価を受けたときに初めてヒットする可能性があるということである。特許商品だから必ず売れるというものではない。ヒットするか否かは、販売方法や価格の設定にも掛かっているのである。商品が設備機器であれば、保守サービス体制が充実しているかどうかも大きな要因となる。

 新商品の価格戦略は、特許の技術がどういうものかによって戦略思想が変わる。競争相手がその技術に匹敵する新技術を開発するのに何年かかるか、そして商品化してマーケットに投入出来るまでに何ヶ月かかるか、ということを念頭において考えなければならない。2、3年で追いつける程度の技術であれば、グズグズのんびりしている余裕はなく、2年以内くらいで迅速にマーケットを占有しなければならない。

 さもないと、競争相手が強力な販売網を持っている場合、先発の開発メーカーは競争相手のために新商品の宣伝をしているような結果になりかねない。さらに、場合によっては、マーケットの整備までしてあげているようなことにもなりかねない。これは、いわゆる大企業が最も得意とする2番店商法と言われるものであるが、後発の大企業があっという間に占有率を奪ってしまう。これを防止するには1番店商法戦略を採らなければならない。マーケットシェア率70%の獲得とブランドイメージの浸透である。従って、価格は2年以内に50%以上のシェアを獲れるように設定する必要がある。これが戦略価格である。

 競争相手が5年以上の開発期間を要するような技術商品であれば、ゆっくりと時間を掛けてマーケットを育てながら販売に集中することが出来る。定価も、ユーザーが購入意欲を起こす上限近くに設定することになる。このとき、決して製造原価をベースにして価格を設定してはならない。商品の価格はメーカーが決めるのではなく、マーケットが決めるものであるという原則を忘れてはならない。従って、価格はマーケットが許すであろうマキシマムに設定すべきなのである。

 ヒット商品は、特許製品であってもマーケットをいつまでも独占することは出来ない。儲かるマーケットには、必ず、似たような性能の競争商品が雨後の筍の如く出現するので、いずれはシェア率が40%程度に落ち着くのである。競合相手は利益が見込めるようであれば、積極的に低価格競争という喧嘩を売って来る。競合相手の出現を避止するためには、可能な限り相手が参入意欲を無くするような戦略を採らなければならない。これも競合相手の出足を挫くための戦略価格である。

 例えば、後発企業が参入する時期を見計らって、一気に、相手が打って出にくい価格まで販売価格を下げて対抗するのも一策である。競合相手は、ヒット商品のヒット商品の市場価格を参考に、▲10%の売価を想定して開発に取り掛かる。しかし、突然、先発企業に販売価格を下げられると、後発企業としては予定の利益計画が狂う一大事となる。開発費を予定の年限で回収することが出来なくなり、再度コストの見直しを迫られる訳である。

 売価を下げることはストレートに利益が減ることを意味するが、競争相手にとっては開発費の回収期間が長くなり、純利益を得るまでに長い時間がかかることを意味し、過大のリスクを背負いこむことになる。予定コストや予定利益が得られないとなれば、撤退となるかも知れない。商品が、隙間商品であればあるほど、あるいはマーケットが隙間化すればするほど、この開発リスクは大きくなる訳である。ここで先発企業が販売価格を下げなければ、後発企業は大手を振って参入し、シェアを食うことになる。こうなれば、後は販売力と原価低減力が物を言うことになる。多くのベンチャーはこの壁が乗り越えられずに消滅した。これが価格戦略である。

 そのためには、アンテナを高く広く張って、マーケットの動きを常に細かくリサーチし、後発企業が出現しそうか、そうでないか、という情報を常に敏感に収拾しなければならない。後発企業が現れそうな情報を掴んだら、販売価格をどの時点で下げるか、という決断をすることになる。効果的なのは、相手の販売開始日の数日前に価格変更を広報することである。これによって、相手は販売価格と販売予定数量を見直す作業を余儀なくされる。

 先発企業が、商品価格を余裕をもって設定したことによって、2番手企業の出端を挫き、参入を食い止めてマーケットを守ることが出来るのである。このように、価格相場をコントロール出来るのは、価格設定を誤らなかったシェアNO.1企業のみである。

 しかし、力のない中小企業や零細企業の場合、如何に素晴らしい商品を発明しても、一時も早く売りたいがために最初から安い価格で販売するという過ちを犯してしまいがちである。力のある後発企業が更に安い価格で参入して来たとき、価格を下げられるだけの余裕がないために、折角築き上げたマーケットシェアが見る見る食われて行くのを忸怩(じくじ)たる思いをもって傍観するしか手がなくなる。

 こうして、いつしか1番手企業と2番手企業の順位が入れ替わる。先発企業は、マーケットを作っただけで、リスクを負って開発した商品の開発費用も回収できず、創業者利益も殆ど手にすることが出来ないということになる。開発企業としてはきちんとした戦略価格を採らなかったための失敗であると言うことができる。


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