
司馬遼太郎氏によれば、日本の代表的な美人の産地は秋田県と島根県の出雲だそうである。秋田県は全国的に有名であるが、出雲が美人の産地だとは知らなかった。思い返してみれば、鳥取や島根には縁が薄いようで、その地方の女性にお目にかかかったという記憶が全くない。女性に限らず、住所録を繰ってみても男性の知人もいないのである。
出雲には天皇家に匹敵するくらい古い家系の千家(せんげ)という姓の名家がある。その子孫は累代今も出雲大社の神職である。一説によれば天皇家よりも100年以上も古いそうだから、日本で最も古い家系ということになる。邪馬台国が東征して造ったといわれる大和朝廷から派遣された神官であるという説と、7〜800年前に朝鮮か中国から渡ってきた渡来系が造った出雲王国国王の末裔とする説がある。いずれにしても、出雲は大陸と黒潮でつながっており、古代から朝鮮半島との交流が盛んであったことは容易に想像できる。
司馬遼太郎氏の説では、出雲は朝鮮系の美人だそうだから京都美人の系統かもしれない。多分、小柄で色白の肌目の細かい一重瞼の女性だろう。出雲美人の話は後日に譲り、秋田美人の話に入ろう。
秋田美人と言えば小野小町であるが、秋田の中でも特に仙北郡(2005年仙北市に)角館(かくのだて)町界隈が美人の郷とも言うべき所である。角館は、盛岡から秋田に向かう田沢湖線(1998年に秋田新幹線となった)の大曲駅の手前、奥羽山脈を抜けて平野部に掛かった田沢湖の南側にある。私は平成8年1月、芭蕉の「象潟や・・・」の句で有名な秋田県の象潟(きさがた)の北方、秋田市の南西の日本海に面した漁村、仁賀保(にかほ)町の取引先を訪問した帰り、秋田市在住の知人の案内で僅かな空き時間を利用して角館の町を訪れた。
北国の1月の空は鉛色に曇ってどんよりと重く冷たい。雪まじりの角館駅に降り立ち、1kmほど車を走らせて武家屋敷街へ向かった。道の両側に武家屋敷の黒塀が1kmほど続く。さすがに観光客らしい旅人は一人も見当たらない。人影のない粉雪の中に枝垂れ桜が茫と浮かび、武家屋敷街の雪景色は水墨画か、モノトーンの写真を見るように静寂であった。
街路の中程に、歴史四百年という青柳家と石黒家の武家屋敷がある。青柳家は敷地三千坪という広大な屋敷である。100石取りクラスの中級武士にしては豪壮な武家屋敷で、そのままの姿で文化財として保護されている。石黒家は青柳家の向いにあり、さほど広くはないが「石黒家の枝垂れ桜」として全国的に有名である。JR東日本のポスター「ディスカバー・ジャパン」にも登場したことがあるので、記憶されている人も多いだろう。
純白の見事な枝垂れ桜である。武家屋敷と並んで角館を代表する名所となっている、この枝垂れ桜は、江戸時代に京都から移植されたと言われている。東北に遅い春が来ると、上品な真っ白い花を咲かせる。東北の桜は殆どが淡いピンク色をしていて、白い桜花は東北には珍しいのだそうである。私たちが訪れたときには、その枝垂れ桜の小枝のところどころに、まるで可憐な猫柳の新芽のような雪帽子を作ってひっそりと微風に揺れていた。
20年くらい昔になるだろうか、正確な番組名は忘れたが、日本テレビで「秋田美人の謎を探る」というテーマの番組が放映されたことがある。確か日本生命提供の「謎を探るシリーズ」番組だったと思うが、角館の女性について一時間の特集が組まれ紹介された。それによると、この街の女性は日本のどの地区の女性よりも色白で、肌のきめが細かく日本一奇麗な肌だという。常に水気を含んだようにしっとりとして、日本人に多く見られる乾燥型のカサカサした肌ではないらしい。
しかも、色白であるから正しく餅肌という訳である。その理由は、皮膚の単位面積当たりの汗線の数が、外の地区の女性と比べると際立って少ないのだそうである。だから、肌目が細かくて乾燥しにくく、いつもみずみずしいのだろう。「秋田こまち」や「小町娘」などの商品名にもなっている有名な小野小町が、秋田のどの地区で生まれたかは諸説紛々で定かではないが、いずれにしろ小野小町に代表される秋田美人の郷だけのことあって、今でも通りすがりの女性を眺めていると、目鼻立ちの涼しい顔立ちの整った美人が目につく。
瓜実型や卵型の日本的な美人もいるし、彫りの深い西洋的な美人もいる。眉目秀麗、容姿端麗な女性の多い街である。西洋型の美人は鼻が尖がって高く、眼もやや窪み、目の下の骨も張り出しておらずエキゾチックな顔立ちである。見るからに白人的で、骨格も腰骨が発達して日本人離れしている。恐らく白系ロシア人の血が少し混じっているのだろうと解説されていたが、まだ仮説の域を出ておらず、そのルーツまでは分かっていないようだ。
青柳家の中にあるウドン屋さんで、秋田県名産の稲庭うどんを昼食に摂った。シコシコとしてコシの強い肌合いの綺麗な麺で、美味であった。この店の、一寸ばかり訛りのある東北弁が印象的な女将さん風の人も、年輩ではあったが顔立ちの綺麗な女性であったし、帰路に武家屋敷街の有料駐車場で見かけた若奥さん風の女性も美人であった。西洋風の綺麗な姿形の美人で写真を一枚撮らせて欲しかったが、声を掛ける間もなくあっという間に小型車に乗り込んで走り去った。
角館駅の待合室には16,7歳くらいの女子高校生が二人、木製のベンチに並んで腰を下ろし無心に本を読み耽っていた。年頃になれば日本的な美人になるだろうなと思わせる綺麗な顔立ちで、将来が楽しみな少女達だった。二人共、「鄙(ひな)には稀(まれ)な」という言葉がふっと脳裏をよぎったくらい色白で、上品な顔立ちの垢抜けた女性であった。
秋田出身の女性は四人知っているが、四人とも顔立ちの奇麗な女性である。その内二人が角館の出身である。一人は瓜実顔の中肉中背の極く日本的な顔立ちの女性で、和服も洋装も似合う人であるが、鼻筋の通った中高の面立ちの上品な顔立ちである。もう一人は大柄で背も高く、骨格のがっしりした女性である。色白の日本人離れしたエキゾチックな容貌の、白系ロシア人風の人である。日本テレビの番組を見てからは、女性を見ると汗線の数や骨格が気になるようになった。
角館歴史村、武家屋敷街の青柳家の二階には、美術品や民具や武具などが博物館風に展示してある。喉が乾いたら地下中二階にある「ハイカラ館」という喫茶店で一休みできる。400年の歴史の家にコーヒー屋さんというのも変だが、入り口からトントンと階段を数段下りた所に喫茶コーナーが設(しつら)えてある。大正時代に建造されたと思われる土蔵造りの洋館で、調度品がしっとりと落ち着いている。洒落た造りの趣味の良い喫茶店である。サイホン式の本格的なコーヒーを上等のカップで飲ませて貰える。