以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      VOL.19    2000.06.01号 [ 毎月1日更新 since 1998.12.15 ]

幻の門  --構えありて構えなし--   

 門に表札をさげていない家は殆どないだろう。ところが、慶應義塾には門はあっても「慶應義塾」と書いた表札が無い。何故に?表札がないのか?この問いに対して創立者である福澤諭吉翁は、

 「表札が無い家は入り易いようで、実際のところ何となく入りにくいものだ。表札があると、さて、ご主人が出て来られたら何と挨拶しようかとか主人に何と言われるだろうかとかの思いが逡巡し、無意識の内に緊張してぶったり』、『構えたりするものである。しかし、表札が無ければどういう心の準備をしたらよいか戸惑うだけで、門の中に入った時も同じ表情で居なければならぬ」

と答えている。人間もかくあるべし、という訳であろう。要は、「虚飾を捨てて実の姿のままでいよ。何事においても、如何なる場面に遭遇しても、最も大切なものは平常心である」ということで、表札の無い家のようにごく自然体でいなければならない、と教えているのである。

 人間というものは、どうしても「構え」たり「ぶったり」しがちなものである。「構えたり」「ぶったり」することについては、宮本武蔵の「五輪書」が分かり易い。「構える」とは、物事に動じない確固とした姿勢を取ることによって自分を守ろうとすることである。「構える」という動作は、門構え、城構え、身構えなどの言葉があるように、いずれも「さぁ、何処からでも来い」という完璧な防御体勢を感じさせる。

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