以久遠氏の Beauty,Business & Favorites   ビジネス人間学    VOL-01/1998.12.15

   所        

説き伏せるには大胆な人を、説き勧めるには話の上手い人を、

調査や観察には巧妙な人を、

おいそれと片づかない仕事には、強情な一筋縄では行かない人間を用いるがよい。

「ベーコン随想録より」

 成る程!思わず、成る程!と唸らざるを得ない。ベーコンのユニークで鋭い人事観には思わず感心させられる。この言葉は正しく人事の要諦である。人の性情性格は各人各様それぞれに千差万別で、性格について良し悪しを決め付けることは出来ない。どんな人にもその人にしかない良いところがあるからである。人事の要諦は、その個性を如何にして生かしてあげるかというところにある。

 個性を生かすということは、個性を認めるということである。人は、個性が認められ、しかも個性にぴったり合った仕事を与えられたとき見違えるように変身し、びっくりするような出来栄えの仕事をする。その姿を見ると、変身したかのように見えるが、実は変身しているのではない。本来持っている能力を、自らが顕在化させただけに過ぎない。この潜在している能力を顕在化させる役目が人事管理であり、上役の役目ということになる。

 慶應義塾を創設した福沢諭吉の言葉に

    「いわば教育は植木屋の仕事にも似て、草木の天性を見事に成長させ『人生の本来に無きもの』を造りて之に授る

     に非ず。唯有るものを悉く皆発生せしめて遺すことなきに在るのみ」

というのがある。教育というのは、「その人の持っている天賦の才能を100%引き出すこと」であるという訳である。人を育てる時の心構えであるが、個々の個性を生かす人事管理ほど難しいものはない。周りを見廻してみても、ベーコンが言っているようなタイプの人が必ずいる筈である。大抵は、ユニークな個性のみがマイナーに評価され、扱い難い人物として組織からはみ出すか、あるいは組織の中にヘドロのように沈没している。

 彼らは天賦の才能を活かせる部署にも権限にも恵まれず、また自ら才能を開発しようともせず、如何にも無能な社員のごとく、覇気もなければ意欲もない無気力人間として目立たない存在になっている。宝どころか、忘れられた存在になってしまっているのである。ベーコンの見方を採り入れて、もう一度冷静に個々人の個性と能力を見詰め直して組織を見直せば、今までとは一味違った生き生きとした活気のある組織を作り上げることが出来るのではないだろうか。

 人事は個人の個性を生かして行われるべきであるにもかかわらず、多く、単に明るくて人が良さそうだから営業に、数字に強そうだから経理に、凝り性のようだから企画に、というように極めて直感的に配属されることの方が多い。この際、もう一度ベーコンの言葉を考えてみよう。

 「説き伏せるには大胆な人を」

 説き伏せるという行為は、自分の価値観を使命という名の下に、強引に相手を納得させることである。そういう意味では、本当は実に無責任でファジーな行為であると言えるが、強烈な自信と「俺に任せろ」という親分肌の太っ腹な人でないと出来ない。相手の立場を理解し過ぎる人や、自分自身にさえ自信が持てないような小心者には到底出来るものではない。

 「説き勧めるには話しの上手い人を」

 相手を納得させるには諄々(じゅんじゅん)に解きほぐして分かりやすく話せることが必須である。相手の能力に合わせて、相手が理解するまでじっくりと時間を掛けて、辛抱強く我慢強く話せなくてはならない。小学校や幼稚園の先生などには多いが、企業では、教育担当やコーディネーターの仕事にはこういうタイプの人が良いのかもしれない。

 「調査や観察には巧妙な人を」

 巧妙な人というのがちょっと意味が曖昧で不鮮明であるが、恐らく理科系型の分析型の頭脳明晰な人という意味だろう。どんな些細な現象も見逃さない緻密な人を指しているのだと思うが、企画やマーケッティングの部署には学者肌のオタクっぽい凝り性の人が向いているということだろう。

 「おいそれと片付かない仕事には、強情な一筋縄ではいかない人を」

 クレーム処理や引くに引けない、あるいは追い詰められて後のない交渉事などは、確かに相手がうんざりするような強情者が適任である。強情とは、一面、信念の顕われでもある。それ自体は素晴らしいことなのだが、話の通じない相手のときほど困ることはない。いい加減にしてくれと、途中で投げ出したくなることがしばしばある。研究開発業務や新規事業には信念と使命感が要求されるので、こういうタイプの人が適している。


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