以久遠氏の Beauty,Business & Favorites   ビジネス座談-2-   VOL. 21 / 2000.08.01号

1番店商法の時代  

 インターネット時代を迎えて、IT革命という名の下に、再び情報というソフトを主体とした商品による第2次ベンチャー時代が訪れている。現在は、第1次ベンチャー時代とは産業構造やビジネス環境が様変わりして、中小・零細企業でも世界的なヒット商品が生まれる素地が出来上がっている。企業の規模や知名度が、必ずしも企業の格を決める時代ではなくなっているのである。

 第1次ベンチャー時代は、昭和40年代後半の高度成長時代の最中に、ハイテク技術と新しいマーケッティングスタイルの上に登場した。この頃が、我が国のハイテク時代の幕開けであり、またベンチャービジネスの揺籃期であった。そして、マーケッティング的には「2番店商法」が華やかな時代でもあった。

 ノーブランドメーカーやベンチャービジネス企業が額に汗して世の中に初めての商品を開発し、販売に協力して呉れる企業を足を棒にして探し、やっとのことで販売に漕ぎ着けた時代である。当時は企業ブランド全盛の時代で、如何に優れた新製品を開発しても、名もない企業の相談に乗って呉れるような大手販売店は殆どなかった。大手総合商社を頂点とした販売ルートが確立していた時代で、頂点の商社が相手にしてくれない限り大量販売が出来なかったのである。企業信用が幅を利かしていた時代である。

 従って、どうしても名の通った企業に販売を依頼せざるを得なかったが、殆どの大企業は聞いたこともない零細企業などは見向きもしないのが当たり前であった。そんな時代であるから、中小零細企業がブランド企業の販売協力を得ることは並大抵ではなかった。殆どのベンチャー企業の創業者が最も苦労した点である。

 実は、大企業はこれらの商品に全く興味がなかった訳ではない。実際は、消費者がどういう反応を示すかを興味深く大きな関心をもってじっと見詰めていたのである。何故なら、もしもその商品が大ヒットしそうな兆しが見えれば、大企業はブランド力を利用して自らの大資本と強大な販売力をもって、この新らしいマーケットに2番目に参入しようとする戦略を採るのである。

 そして、まるでハイエナのように先発の零細ベンチャー企業を蹴散らし、アッという間にトップシェアを奪い取る訳である。このハイエナ商法が「2番店商法」と言われるものである。2番店商法戦略は、高度成長時代にあっては最小のリスクで最大の利益を獲得する最も効率のよい販売方法であった。従って、殆どの大企業はこの販売戦略を採っていた。

 当時、大多数の商品の普及率はまだまだ低く、しかもマーケットはゆっくりと成長し、マーケットが成熟するまでに長い時間を要した。大企業はマーケットの成育状況を見ながらゆっくりと新しい市場へ参入することが可能だったのである。しかし、高度成長は成熟社会の到来を促進した。そして、その高度成長の陰でマーケットニーズは確実にウォンツ化し、そのウォンツニーズが隙間マーケットを順調に成長させていた。

 大型商品マーケット自体が段々隙間マーケット化していたのである。こうして、消費者の意識は、企業ブランドの時代から商品ブランドの時代へと移行しているのである。隙間マーケット時代には、「2番店商法」のような時間を掛けてゆっくり参入するという悠長な戦略は成り立たなくなったのである。

 隙間マーケットとは、商品によって規模が異なるが、数億円から数十億円程度(稀に100億円前後規模もある)の小さなマーケットで、決して大きなマーケットではない。そのために、最初の隙間商品がマーケットを独占し、アッという間に普及率も飽和点に達するという特徴を持っている。ということは、2番手として参入しても高シェア率を望むことは到底無理で、売上額も微々たるものしか期待出来ないということになる。即ち、先発企業だけがパイオニアメリットを独占することができるのである。

 また、隙間マーケットというのは、マーケット規模が小さいために、大企業が指向する「大量生産大量販売」という戦略には向いていない。そのままの戦略であれば、大企業は参入しにくいということになる。また、マーケットが小さいということは、新規参入する企業も少ないということで、競争相手が少ないということでもある。謂わば、無風地帯のエアーポケット的マーケットなのである。

 しかし、価格が高過ぎると2番手の参入を許すことになるので、価格は2番手が参入する意欲を無くすような低価格に設定しなければならない。それは又、適切な販売戦略を採ることによって市場価格の主導権が握りやすいことをも意味する。労せずしてプライスリーダーの地位が得られるのであるから、これほど魅力的なマーケットはない。必然的に、開発費の回収も適正利潤も確保しやすい。そういう意味で、中小企業にとって隙間マーケットこそ恰好の事業領域であると言える。

 隙間マーケット商品は、マーケットの大きさから見ても、絶対利益や投下資金の回収年数から見ても大型設備投資を要するような商品ではないだろうと想像できる。また、技術的にも、必ずしも最先端技術である必要はなく、高度にハイテク化が進むとも思えない。むしろ、商品的にはハイテク路線とローテク路線の二極構造のままに進行するのではないだろうか。品質や機能が大企業の製品を凌いでいなくとも、十分市場価値を持ち得るのである。

 以上の理由から、隙間マーケットへはトップで参入しなければ意味がない。こうして今、一番目に市場に登場した商品がマーケットを制覇し最も大きな利益を得ることができるという、いわゆる「1番店商法」の時代を迎えているのである。一番で隙間マーケットに参入するためには、商品企画力と開発力とスピードが要求される。開発力とはリスクを恐れぬ挑戦である。リスクへの挑戦とスピードが企業の生死を分ける時代が到来しているのである。成熟経済下においては、益々マーケットの要求は尖鋭化する。


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