以久遠氏の Beauty,Business & Favorites       ビジネス-1-      VOL. 25 / 2000.12.01号

   葉隠の人間学     

 「葉隠」には、対人関係など、人との付き合い方についても沢山の金言が記されている。「どんな人間にも学ぶべき点がある」というのは抽象的であり一見陳腐な表現であるが、現実には中々出来そうで出来ない。人間、誰しも気の合う人と気の合わぬ人がいるものである。いけ好かない人から学ぶことがあってもいい筈だが、「坊主憎けりゃ袈裟まで」の類で「どんな人間にも」というところまではなかなか至らない。以て、自戒すべし。

 また、人と付き合う際には「徒(いたずら)に狎(な)れに陥るな」と戒めている。親しくなることを馴れ馴れしくなることと思い違いして、ちょっと親しくなると過度に狎れ狎れしい言動に変わる人がいるが、そうではないのである。「親しき中にも礼儀あり」で、言動に気を付けて初対面のつつましさで付き合うべしと、水の如き君子の交わりを勧め、どろどろした付き合いにならないよう戒(いまし)めている。言い換えれば、「癒着するな、紳士淑女の付き合いをしろ」という訳である。

 また、「切れ者は、驕(おご)りやすい」傾向があるので注意しろ、と言い、「成り上がり者と見下すな」と戒めている。「驕る」ということは人より自分を高く位置付けようとする心理で、自分を力以上に見せようとする防御本能の現われとも言える。切れ者は過度に自分を高く評価しようする傾向があるし、いわゆる「やり手」と言われる人や「やり手」と思わせたい人にもこの傾向は強く表われる。

 葉隠はこの点について自戒を促し、人は言動で人を判断しがちであるので、相手に「遣り手」みたいな印象を与えないようにしろと、くどいくらいに実に細かい忠告を与えている。「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があるように、「やり手」と評される人ほど謙虚になれ、と言っているのである。

 また、「過ちの一つもない人間は信用出来ない。これは欠点を隠しているのだ」と、完璧な人間なんている筈がないと看破しているのは流石(さすが)である。この葉隠の言葉は、慶応義塾を興した福沢諭吉が「学問ノススメ」の中で、「疑わざれば求めず、求めざれば得ず」、「信の世界に偽詐(ぎさ)多く疑の世界に眞理多し」と塾生に諭した言葉と一脈通じるものがある。

 欠点があるのが人間なのである。大多数の人たちは単に完璧な人間を演じているに過ぎないのである。従って、完璧を演じる人間ほど疑うべきなのである。人には欠点はあるものだと肯定した上で、人に接しなければならないと注意を喚起しているのである。相手の欠点を欠点として認めていれば、欠点はさほど気にならなくなる。気にならなくなれば、腹も立たなくなる。


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