以久遠氏 Beauty, Business & Favorites   ビジネス   VOL. 34 / 2001.9.15号

裸の王様になっていないか?   

 「裸の王様」という童話を知らない人はいないと思うが、組織が大きくなればなるほど、往々にして「裸の王様」になっているトップは多い。反面、そのことを自覚しているトップは非常に少ない。殆どのトップが「私は会社の隅々まで把握している」と思い込んでいるが、それは報告されたことだけしか把握していない、ということに気が付いていないだけなのである。報告されない情報の中にトップとして本来知っておかなければならない重大な情報がある。

 それが、時としてひょんなことから表面化することがある。ひょんなことは、大抵、組織の外で起こる。そして、組織の恥部が思いがけないところで露呈し、トップはのっぴきならないところへ追い込まれることになる。何故、突然外部から暴かれて、何故、内部からきちんとした報告が無いのか?内部で起きている重大事が組織を統括的に管理運営している筈のトップに報告されないのか?

 往々にして、このような事態はトップダウンの組織において日常的に見られることであるが、実は組織にとって由々しき大問題である。もちろん、何も彼も、どんな些細なことでもトップに報告しろ、と言っているのではない。もしトップがそのような要求をするのであれば、その組織には上級管理者はもちろん如何なる管理職者も不要ということになる。「便り無いのは良い便り」という言葉もあるように、報告事項は選別されて然るべきもので、将来に禍根を残すような重大な事柄を選別してトップへ報告しなければならない。その判定が的確であるかどうかが上級適性と下級適性の分かれ目となる。

 拙い事を隠そうとする気持ちは分からないではない。恥をあからさまにすることは誰でも嫌なことである。個人に関するものであればそれでも良いが、組織においては時に犯罪行為に匹敵することもある。しかし、組織においては永遠の課題みたいなもので、残念ながらなかなか改まらないのが現実である。

 拙い事というのは、メーカーの場合は大抵サービスクレームとして返って来る。そこで、アメリカのプロクター・アンド・ギャンブル社の社長は全てのクレームを社長決裁として社長直轄の専門部署を設けているそうである。わが国では、以前、日立製作所の三田勝茂社長が同じようなシステムを採られていた。全てのクレームは、電話で聞き取ったメモ紙の上部の空いた所に「三田」の「三」を丸で囲んだ「丸三」という印を付けるとそのまま三田社長へ回付される仕組みになっていた。通称、「丸三(まるさん)文書」と呼ばれていた報告書である。そして、クレームを報告しない者については人事評価において厳しく査定された。

 これ程までしなければならないという原因は、もともと組織が有している欠点である。ピラミッド型組織というのはどうしても縦割り型の組織になるために、権限も縦割り型になり、外部管理者が口出しにくくなるという欠点がある。拙いこと、即ち上級管理者個人にとって不利益になる事柄には、上級管理者の絶対的な命令(人事権を有する者の権限)によって「社内に緘口(かんこう)令」が敷かれてしまう。命令に従わない者には「組織規律違反」という罰が課され、昇格や昇給に不利益が課されることになる。こうして、企業にとってマイナスとなることが深く沈殿して行く。

 この問題を解消するには、三菱商事がやっているように、組織を超えたプロジェクトを沢山作るのも良い方策である。こうすることによって、「何とかしてトップに伝えなければならない」という危機感を持った人間は、上級管理者に知れてしまえば「内通者」あるいは「告発者」という烙印を押されかねないという余計な危惧を抱くことなく、プロジェクトの中で情報を公開し検討する機会を得る。「指示・命令」という一方通行的に処理される問題が組織を超えて横断的に共有化されることになる。汚いお金を綺麗なお金に浄化する「マネーロンダリング」のような機能である。

 もともと、日本の社会には昔から「村八分」とか「五人組」という内通者や告発者を摘発する閉鎖的な組織があり、多くの日本人はその中で生きて来たという歴史がある。その組織には、臭い物に蓋をする人と蓋をさせる人がおり、かと思えば、臭い物の傍は通らない人もいる。見て見ぬ人もいる。最初から見ようとしない人もいる。触らぬ神に祟り無し、という考えの人もいる。このような思考や行動が、骨の髄まで滲み込んでいるのである。

 この気風が企業にも染み付いており、これが企業風土として営々と後代へと承継されて行く。だから、なかなか企業の価値観が変わらない。「何でも言える」という組織が活力を生み出し新しい発想を育む。どんな下らないことでも気軽に言えるということは、冗談も言えるし、「悪いことでも言える」ということである。オープンな組織には冗談があるが、発言を選別しなければならない組織に冗談は無い。

 貝のように口を閉ざさせる、「もの言えば唇寒し」という組織は、上級管理者の保身から生まれる。不始末や自分にとって不利なことを隠すことは、自分にとって良いことだけしか報告しないことを意味する。良いことだけしか報告しないということは悪いことは報告しないということと同義である。何故なら、個人が良と悪の間に一線を引いて、自分勝手な選別をしているに過ぎないからである。

 こうして、良いことだけを耳にする裸の王様が誕生して行く。しかし、変化と革新が要求されている時代においては、これではいずれ企業は滅亡するだろう。組織の職制を縦糸とすれば、プロジェクトは横糸に相当する。縦糸と横糸の強さのバランスが取れていなくては良い布とは言えない。いずれ、綻(ほころ)びが出来る。


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