江ノ島は、東西に幅広い神奈川県の中央部太平洋岸に位置する。湘南海岸を象徴する緑豊かな島である。湘南海岸と富士山と江ノ島の三点セットは格好の題材なのだろう。昔から、唱歌に歌われたり、歌謡曲になったり、絵画や写真になったりしている。江ノ島の後ろの長い海岸線の上に富士山が聳える写真や絵が人気があるようだが、安藤広重の「東海道五十三次」の中にも同じような風景が描かれている。
海岸線に沿って走る西湘バイパスから江ノ島を遠望すると、がっしりとした架台の上に灯台が乗っかっている形をしていて、まるで白波の湘南の海に巨大な軍艦が浮かんでいるように見える。反対に、逗子海岸や葉山海岸から遠望すると、弧状の海岸線から突き出てて海中に浮かぶように江ノ島と高い灯台が見え、その右上に高く秀麗な富士山が見える。安藤広重ならずとも、絵心のある人であれば誰でも絵筆を取りたくなる美しい風景である。
その江ノ島も、浜辺から人影の消え始める夏の終わりの江ノ島は寂しく、また見る方向によっても寂しげであったり、雄々しかったりする。見る人に様々な感情を湧かせる島である。島の南海岸には海岸から島の中央部に向かって人が掘削したかと見紛うトンネルのような自然の洞窟がある。風の強い日には波飛沫(なみしぶき)が洞窟の中まで入って来る。その洞窟の中に江ノ島神社の別院があり、艶(なまめ)かしく艶(あで)やかな女神、弁財天(べんざいてん)が祀られている。
洞窟のある南海岸は足場の悪いゴツゴツした荒々しい岩場で、以前は落石の危険があり立ち入り禁止区域であった。数年前に安全柵を設けたりして観光用の通路橋が出来、立ち入り禁止が解かれてからは訪れる人が増えた。江ノ島の新しい観光スポットとなっている。通路橋は絶壁に沿って、あるいは岩の上あるいは海の上に廻廊のように架け廻らされている。その橋を渡り進むと、岸壁にぽっかりと口を開けた岩窟の入り口に着く。
洞窟の内部は思ったよりも広く、手入れも良いトンネルである。裸電球の灯りに誘われるようにして、岩窟の奥深くへ呑み込まれるように奥へ奥へと進む。くねくねと曲がりくねったトンネル路を一番奥まで行くと、岩窟の奥まったところに腰に薄物を纏(まと)っただけの立膝姿の艶やかな姿の弁財天の女神が祀られている。優しく清楚な表情の女神であるが、薄暗い岩窟の中にローソクの灯に浮かぶように佇んでいるその光景は一種異様な艶(なまめ)かしさがあり、直視するには一寸ばかり気恥ずかしく心乱れる思いがする。
江ノ島を訪れるには、小田急や藤沢や鎌倉から江ノ電を利用するのも良いし、国道134号線から車で訪れるのも良い。ただ、車はかなりな渋滞を覚悟しなければならない。海岸から江ノ島までコンクリートの橋が架かっているので、江ノ島までは歩いても行けるし車でも行ける。江ノ電や小田急の江ノ島駅周辺の賑々しさと遠浅の穏やかな海浜風景と違って、江ノ島の内陸部は結構険しい岩山である。江ノ島の玄関部には寺社の門前町のような商店街が小さな街を形成し、近海で獲れた魚介類の店や江ノ島土産の店が軒を連ねている。
魚屋さんは観光客だけでなく地元の人たちにも新鮮さと良心的な値段が喜ばれ、ねじり鉢巻にゴムの合羽姿の兄さんたちの威勢の良い掛け声が賑わしい。商店街の道は狭く、くねくねと曲がりくねった石畳の急な坂道で、その両脇には温泉饅頭に似た江ノ島饅頭や貝細工の店が階段状に軒を並べている。この道は江ノ島神社への参詣路で、車は入れない。その商店街を過ぎると、片側が崖の所に出る。
ここからが江ノ島神社の始まりのようである。島の中央部の頂上に昇るエスカレーターの乗り口で、場末の映画館の切符売り場を思わせる派手派手しい色彩の切符売り場がある。頂上へは歩いても登れるが、二本のエスカレーターを乗り継いで頂上へ登るのが早い。途中は緑の深い山道然としており、島内観光というよりハイキングか何かで山に登ったような感じになる。頂上は意外に広い平坦地で亜熱帯植物園があり、傍に展望台の鉄塔がある。灯台だとばかり思っていたのは展望台であった。
展望台からの眺めは、太平洋の広大な海原が見渡せる眺望絶佳の地で、南には太平洋の漣がキラキラと輝き、東には逗子から葉山にかけてのマンションやヨットハーバーの建ち並ぶ瀟洒な佇まいの海岸線が見える。西には小田原から熱海を経て伊豆半島に至る和弓のような長い湘南の海岸線が煙に霞むようにぼんやりと目に入る。雄大なパノラマを見るようである。
江ノ島観光は、やはり、のんびりと民家の庭先や屋根先を掠めるようにして走っている「江ノ電」の旅が楽しい。鎌倉と藤沢を結んでいる通称「江ノ電」と呼ばれている江ノ島電鉄の二両連結の電車を利用して「江ノ島」駅で降りる。江ノ島海水浴場や水族館の傍である。新宿から小田急江ノ島線で終着の「小田急江ノ島駅」で降りてもよい。東海道線や横須賀線の大船駅で江ノ島モノレールに乗り換えて「江ノ島駅」で降りる方法もあるが、こちらは海岸まで少し距離がある。