以久遠氏 Beauty, Business & Favorites   文化紀行   VOL. 35 / 2001.10.15号

箱根強羅の、陶器博物館    

 小田原から仙石原の方へ登る国道1号線は正月の箱根大学駅伝のコースともなっている道路である。この急峻な崖にへばりつくように造られた谷間の道路の景観は如何にも「箱根八里は馬でもきつい」という小学唱歌に歌われた情景を思い起こさせてくれる。標高800m強の箱根峠までくねくねと曲がりくねった谷間の道で、昼なお暗く、時々、木々の間から指す季節の木漏れ陽が都会の喧騒に荒んだ心を癒してくれる。車の冷房を切って窓から入る風が心地よく、真夏でも涼しい。4月には桜の花が咲き、11月には紅葉が美しいドライブウェイである。

 塔ノ沢、大平台温泉郷、宮ノ下と箱根を象徴する著名地を過ぎると、1号線は富士屋ホテルの前を通って箱根小桶園の角で左に折れる。直進は138号線となる。138号線を更に登ると強羅(ごうら)温泉郷に着く。強羅で有名なものは彫刻の森美術館だが、直ぐ近くにある「強羅花壇」というホテルらしからぬ名前の洒落たホテルは落ち着いた雰囲気でなかなかよい。ロビーでコーヒーを呑みながら一休みするのもよい。

 箱根登山鉄道の強羅駅の方へ細い脇道に入り、急な坂道を登って行くとフランス式庭園の強羅公園がある。箱根山の急峻な斜面を上手く利用して段々畑構造に設計されている。最上部からのんびりと下りながら散策するにはよいが、下から上への散策はちょっと骨が折れる。春には色とりどりに様々の花が咲き乱れる異国情緒豊かな広大な公園である。

 陶器博物館は、その強羅公園の一番上の道路の向かい側に箱根美術館と並んで建っている。陶器博物館はこじんまりとして地味な建物である所為か、隣の美術館ほどの入場者もなく、入り口付近に人影が無いこともある。しかし、陶器好きの人には見逃せない博物館である。美術品的意味より学術的な意味合いの方が大きい陶器資料館といった感じがする。

 日本の各地のみならず世界各地から発掘収集されたおびただしい陶器の破片が、まるで発掘したばかりかのように無造作にというよりむしろ乱雑に陳列されている。ごちゃごちゃと展示されていて、好きな人でないと見る気がしないかも知れないが、陶器の種類も数量も豊富で見ごたえがある。無傷の焼き物も並べてあるが、国内外の今は無い文化財的な窯元から出土した夥(おびただ)しい破片も展示されている。千々に砕けた焼き物の破片を見ているだけで、想像が膨らみ昔の生活文化が肌で感じられる。陶磁器の好きな人なら、じっくり見て3〜4時間は掛かるかも知れない。

 焼き物は、染付けや釉薬(うわぐすり)の味わいも芸術的要素が大きいが、焼き物の元となる土の色や質が重要な要素である。磁器は肌理(きめ)の細やかな土でないと、磁器特有の淡い柔らかさやガラスのような冷たさは出ない。磁器と陶器では焼く温度が数百度も違う。土によっては高温に耐えられないものもあり、陶器の材料となる土と磁器の土は全く異なるのである。当然、温度と土の材質によって発色も異なって来る。九谷や伊万里や瀬戸などには磁器も陶器もあるが、茨城の昔の益子(ましこ)焼きや沖縄の壺屋(つぼや)焼きなどには磁器は殆ど無い。そのために常滑(とこなめ)焼き、益子焼、壺屋焼きなどは生活雑器の焼き物となった。

 陶器博物館は、私が訪れたときは、お茶の先生風の老婦人のグループが大勢来てワイワイ、ガヤガヤと陶器話に花を咲かせて熱心に見物していたが、我々のような人よりちょっと興味を持っているという程度の人であれば1時間半もあれば十分足りる。また、博物館に隣接している日本庭園は苔の庭として有名で、竹林を抜けると茶室もある。さして大きな庭園ではないが、形の良い楓の木や鬱蒼とした孟宗竹の竹林に柔らかい陽の光が差し込んで緑の苔が輝いている光景はなかなか風情がある。


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