
私は四兄弟の3番目である。もう数年前になるが、父の法事で八女の田舎に帰ったとき、久し振りに四兄弟が一堂に揃った。田舎の家を継いでいる長兄が「面白い相撲茶屋があるから飯を食いに行こう」と我々3人を夕食に招待してくれた。九州縦貫高速道路を通って、八女から車で久留米へ行く。ものの10数分で久留米に着き、久留米インターで降りて西鉄久留米駅の方へ向かう。
豪快な相撲茶屋の名前はうろ覚えだが、現在(2004年7月)は「大地」という名前になっている店である。久留米から熊本に向かう国道3号線の道筋にある。久留米市の南部、久大線のガードを過ぎて南へ暫く行くと、国分辺りの右側に関取の名前の入った幟(のぼり)が派手派手しく10数本はためいているのが見えて来る。観光バスが10台以上は楽に入れるような広大な駐車場のある田舎には場違いの巨大な店構えの店である。経営者は佐賀の人だそうだが、相撲取りであったかどうかまでは聞きそびれた。
店の玄関には直径が1m以上もある大皿が飾ってある。そして玄関を入ると、いきなり巨大な土俵が目に飛び込んで来る。巨大な筈である、横綱曙関の土俵入りであった。しかも、よくよく見ると、琴が浜が太刀持ちで、小錦が露払いである。今は引退した曙関と琴ヶ浜関と小錦関の土俵入り風景であった。あまりの意外性にビックリして思わず立ち止まり、暫し見とれてしまった。一瞬、両国の相撲部屋の稽古場にでも迷い込んだような錯覚に陥る。
実物大の巨大なお相撲さんの人形は、ひと目見ただけでそれと分かるくらい実によく出来ている。まるで本物が土俵の上にいるかのように活き活きとしている。しばし、曙関や琴ヶ浜や小錦の人形に見とれて足を留め、席に着くのも忘れて相撲の話題に花が咲く。料理を食べる前から何かしら心が躍るような楽しい気分にさせてくれる、なかなか味な心憎い趣向である。
パートさんだと思うが、近所の奥さん風の40歳くらいの店員さんに「どうぞ、こちらへ」と案内されて席に着く。桟敷(さじき)席を意識しているのだろう、席の周りを低く仕切った畳敷きの席であった。座布団に腰を下ろして店内を見回してみて、また驚いた。桟敷席の脇に線路が敷設されているのではないか!?。「何だ!これは?」。子供たちを喜ばせるために玩具の汽車でも走らせているのだろうか?と思ったが、ところがそうではなかった。
件(くだん)の店員さんが大きなメニューを携えて注文伺いに来た。相撲茶屋であるので、当然なことながら料理はチャンコ料理が主である。何処にでもある魚と肉と野菜のちゃんこ料理を頼んだ。料理が来るまで、久し振りに会った四兄弟の話が盛り上がった。
暫くすると、そこへ蒸気機関車のD51がピーポーと賑々しく汽笛を鳴らしてやって来て、桟敷席の脇に正確に停車した。見ると、D51機関車の後ろの車両に、巨大なお皿にこぼれるように豪快に盛り付けた料理を積んで運んで来たのである!これには、またまた驚いた。相撲人形と言い、デコイチと言い、なかなか愉快な店である。余程、派手なことが好きな経営者と見える。