最近、囲碁が流行っているようである。近所の碁会所も結構繁盛している。その原因は、どうもパソコンの普及と密接な関係がありそうである。というのは、パソコンのエンターテインメントに「お父さんの碁」というソフトが標準インストールされているためではないかと思っている。
昨年の夏ごろ、期せずして二人の友人から「碁打ちに来ないか」という誘いの電話を貰った。一人は、小中学生を対象に進学塾を経営している学生時代の友人のI君である。学生時代、I君は遊興の世界とは程遠い真面目な学生だったので、電話を貰ったときは思わず「えっ!?碁、打つの!?」と大声を出してしまったくらいである。最近始めたばかりだと言う。碁を打ってみたくなった心境の変化を聞いて見たいような気持ちになる程驚いた。
もう一人は、以前の会社でタッグを組んで一緒に仕事をしていた先輩である。今は引退して茨城に引っ込み悠悠自適の生活を楽しんでいる63才のN氏である。家庭菜園を借りて正しく晴耕雨読の生活で時間はいくらでもある。N氏とは随分打っていないので、ひょっとしたら強くなっているかも知れない。「来月には行きますよ」。
私は、30歳ごろには日本棋院の二段格で打っていた。N氏は当時は5級か6級くらいだったのではないかと思う。N氏とは以前の会社で「六子局」で打っていたが、彼は私以上に賭け事が好きであったので、いつの間にか一局1000円の賭け碁になっていた。結局、一回も負けずに七回連続して勝ってしまった。彼も諦めて8回目からは「一局、500円にしよう」と下げられてしまった思い出がある。その後も勝ち続けたので、N氏もやっと実力を認めてくれたのか、いつの頃からか賭け碁は止めになった。
そんな彼らが、わざわざ何故、私のところに碁打ちの誘いの電話をくれたのか聞いてみたら、二人とも、子供に買い与えたパソコンに「お父さんの碁」というゲームソフトが入っていたので、それで勉強したらしい。奥さんの話では、N氏はパソコン碁にハマってしばしば徹夜をしていたらしい。そして、パソコン碁で連勝するようになって、「俺も、強くなったぞ」という自信を抱き、腕試しに誰かと対局してみたくなり、かっての囲碁仲間である私へ電話を掛けたのだそうである。
そんな事が切っ掛けで私もここ10数年、殆ど碁石を握っていなかったので、再度、勉強しなおそうと思い、自宅近くの碁会所に顔を出すようになった。会員数が20名ぐらいの小さな碁会所である。碁会所を経営している先生は七段ということであった。そこへ初めて顔を出したとき、「段位はどのくらいですか?」と聞かれたので、「初段くらいでしょう」と答えた。本当のところは「二段」と言いたかったのだが、N社を退職してからは殆ど打っていなかったので、負けて恥を掻きたくないという気持ちが働いたためである。
「××さん。2子で打ってください」と先生が傍らにいた62、3歳のお客さんに声を掛けた。2子置くのかと思って黒石の入った碁笥(ごけ)を私の方へ引き寄せようとしたら、そうではなかった。××さんが私に2子置くのであった。難なく私が勝った。先生の指名で相手が替って、次の人は私に先番(黒)だった。この人にも難なく勝った。ちょっとばかり拍子抜けがした。
その次は先生が相手をしてくれた。先生には4子置いた。途中までは勝っていたが、ボンミスをして負けてしまった。次の5子局は私が辛勝した。その日はそれでお終いにして、帰り掛けに「私の段位はどのくらいですか?」と訊ねると、「町の碁会所では、4段でよいでしょう」ということであった。今まで二段以上を申告したことはないので、これにはびっくりした。
碁会所の段級位は経営者の恣意的判断によって商業化し、かなりインフレ化しているらしく、碁会所によってもかなり差があるそうである。昔は日本棋院認定の段級位というのが基準にあったが、じわじわと碁の段級位基準が危うくなりつつあるようである。それ以来、段級位を聞かれたら、二段と答えることにしている。