以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      食紀行      VOL. 39 / 2002.02.15

米沢、三奥屋の「ふきのとう」醤油漬け  

 昨年の12月東北出張の折り、秋田から横手を抜けて山形県へ入り雪深い米沢市を訪れた。米沢には多角的に手広く事業をやっている大学時代の友人がいるので、取引先訪問の僅かな隙間時間を見つけて訪問した。山形県を訪れたのは10年以上も昔になるが、米沢は初めてであった。

 米沢と言えば、「なせば成る。なさねばならぬ何事も、成らぬは人のなさぬなりけり」の名言で有名な名君上杉鷹山(ようざん)の藩である。徳川幕府によって藩の禄高を三分の一くらいに減らされたにもかかわらず、破産状態の米沢藩を財政的に立て直し、武士を一人も首にしなかったことでも有名であるが、その時は殿様から庶民まで上下一体となって力を合わせ苦難に堪え忍んだらしい。従って、士族階級の多い町で、一時、藩民の半分近くが武士階級であったこともあるという藩である。景気がちょっと悪くなれば、直ぐリストラする現代の経営者の何と骨の無いことか。

 山形県の名産としては「将棋の駒」や「さくらんぼ」が最も有名である。最近は、洋梨の「ラ・フランス」やマスカットを改良した葡萄(ぶどう)や柔らかい米沢牛なども有名になった。しかし、米沢牛は狂牛病騒動でさっぱりらしい。上杉鷹山の遺産なのか、現在でも山形県は産業の盛んなところで、多くの大企業の工場が誘致されている。東北では宮城に次いで裕福な県である。

 米沢市の友人宅に立ち寄った折り、友人と彼の奥さんに「米沢のお土産に米沢牛のステーキ肉を持って行きなさいよ」としつこく言われたが、私は狂牛病事件が発覚してから一切牛肉は食べないことにしていたので丁重に固辞した。すると、奥さんが「漬物はお好きですか?手造りの漬物がありますが…」というので頂いたのが「ふきのとう」という商品名の瓶詰めの漬物である。それから暫し漬物の話題に花が咲いた。山形の漬物は材料が豊富な所為か、京都の漬物に勝るとも劣らない知る人ぞ知る一級品ばかりである。

 私は、「おみ漬け」という名前の漬物が好きである。昔、近江の商人が山形に来た時に好んで食べたということから、「近江商人が好んで食べる漬物」という意味で「おみ(近江)漬け」という名前が付いたらしい。「おみ漬け」は大根と人参と葉野菜を細かく刻んで薄塩に漬けた漬物で、新鮮な野菜に特有のやや甘味のある味が活きていて、私の大好物である。お酒を呑んだ後、寝る前におみ漬けのお茶漬けを軽く一杯啜るのが堪らない。「おみ漬け」のお茶漬けはさっぱりとした爽やかな味で、アルコール分が一瞬のうちに体内から消えるような気がする。

 友人の奥さんに「是非、持って行きなさいよ」と薦められた手造りの「ふきのとう醤油漬け」は、東置賜(おきたま)郡高畠町の三奥屋(みつおくや)のものであった。ごく薄味の醤油に蕗(ふき)の新芽をあっさりと漬けたもので、蕗特有のちょっと癖のあるほろ苦さが何とも言えない新鮮な風味を醸し出している。ちょっと塩っ辛いが、温かいご飯にのせて食べても、お茶漬けにしても実に美味い。

 蕗の茎を醤油味に仕上げた「ふきの煮物」とはまた違った独特な苦味が、蕗が生息している自然を髣髴(ほうふつ)と思い起こさせ、鄙びた田舎の香りがする。蕗はキク科の多年草である。その所為か、食用菊の漬物とどこか似た風味がある。如何にも野草といった匂いと香りがするので、嫌いな人も多いかもしれない。しかし、我慢して食べていると、徐々に離れられなくなってファンになる筈である。

 友人を訪ねたのには訳がある。実は米沢の新しい取引先がどういう会社なのか、社長さんはどういう方なのか、訪問前に地元の情報を得ておこうと思ったからである。彼の話では、100年以上も続いている老舗で、なかなかの名門と言うことであった。たったこれだけの情報を得ただけでも、翌日の訪問の際の対応が随分楽になる。

 その後は世間話になり、山形の漬物の話題になって前述の「ふきのとう」のお土産となった。私が「おみ漬け」が大好きだと喋ると、彼も奥さんも「いや、三奥屋の「晩菊」の方が塩が効いていて旨いよ」という。やはり、大酒のみの友人は酒の肴として味わっているのだろう。帰路、通りがかりのお土産店で「どこの晩菊漬けが美味しいか」と聞いたら、店員さんも三奥屋の「晩菊」を勧めた。家へのお土産に彼や奥さんの進言通り三奥屋のものを買って帰った。これも、なかなか美味しかった。


Enter From 検索  UpDate & Back Number Index Home Tour Gourmet Culture Business Profile