以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      Profile      VOL. 39 / 2002.02.15

高地仕様4駆車と100円ガスライター

----ハワイ島4200mの世界---

 今月の13日、ハワイアンサンセット見物と星空ウォッチング目的で、すばる望遠鏡のあるハワイ島のマウナケア山の頂上に着いたのは夕方の5時半頃だった。マウナケア山は標高4205mもある。山頂まで4輪駆動の高地仕様の特殊車両で登るのだが、気圧も酸素も100m登るごとに1%づつ減少する。気温は0.6度づつ下がる。

 従って、4205mの頂上は平地に比べると気温は25度以上低いし、気圧と酸素は58%くらいしかない。酸素が平地の半分くらいしかない世界がどういうものか、こればかりは登ったことのある人でないと理解できないだろう。それが意外なことでご紹介できる事件(というほどでもないが)があった。

 コナ空港のあるカイルアコナの18時頃の平地の気温は17度くらいであった。従って、計算すると山頂は零下7度か8度くらいの筈である。頂上に積もった雪は既に固く凍っていて、踏みつけると氷がサクサクと小気味よい破壊音を立てる。手袋をはめ、防寒衣の風防で頭を覆って寒さに耐えながらサンセットの時間を待つ。

 陽が落ちて行く山頂の気温は見る見る下がる。手袋を忘れて来た同僚が、タバコにでも火を点けて少しでも暖を取ろうと考えたらしく、100円ライターを手で包んで背を屈(こご)めて火を点けようとしていた。しかし、カチッ、カチッという音とスー、スーというガス漏れの音がするだけで全く火が点かない。

 不審そうな表情をして、私のところへ来ると「ライターにガスは入っているのだが火が点かない。火を貸してくれ」と言う。私は日本製の100円ライターと帝国ホテルで買った国産のターボライターの二個を携帯していたので、お安い御用とばかりに100円ライターでカチッと点火させようとした。ところが、何度、カチカチやっても乾いた音とガス漏れの音がするだけである。ライターの点火口を覗いて見ると、火花は出ているのは確かだが、全く点火しない。

 「アレッ、もうガスが無くなったのかな?それとも、壊れているのかな?」と思いながら、ポケットからターボライターを出してカチッと点火してみた。しかし、やはりこちらも同じで火がつかない。「これもガス欠なのかな?」。そう言えば、周りを見廻しても、誰一人タバコを喫っている人はいないし、山頂の見える範囲には一本の吸殻も落ちていない。

 一瞬、「ひょっとしたら、酸素不足の所為かもしれないな」という思いが脳裏をよぎった。寸でのところで捨てそうになったライターをポケットに仕舞いながら、帰りに2800mのオニヅカセンターで試してみよう、とふと思った。帰路、高地順応のために一休みしたオニヅカセンターに戻ってから100円ライターを点してみたら、何のことはない、こちらは無事点火した。

 しかし、ターボライターは依然として乾いた音がするだけで、点火する気配は全くない。ターボライターが点火したのは標高2000mのサドルロードに降りてからである。気圧が低いのだから、ガスの噴出は平地より激しい筈であるので、やはりガスと空気の混合比、つまりガスと酸素の混合割合が合っていないことになるのだろう。

 ということは、一般の車でも同じ現象が起こる筈である。その点をドライバーガイドに質したら、時たま普通のレンタカーで山頂を目指して来る不届き者がいて、時々、3000mくらいの地点でエンストを起こして立ち往生し、途方に暮れている光景を見掛けることがあるらしい。ニッチもサッチも行かなくなって、車の引取りを業者に依頼することになる訳であるが、レッカー代として10数万円請求されるとのことである。高地仕様でない一般車両は登ってはいけないことになっているのである。ガイドさんは「ざまぁ見ろ」と言わんばかりの薄笑いを浮かべながら教えてくれた。

 山頂では各国の天文台が天文学の研究を行っているので、天体観測に支障を来たす車のヘッドライトの明かりや車が立てる埃などを制限するために、山頂まで登れる高地仕様車は業者一社に付き2台までと決められているそうである。サンセット・ツアーを行っている業者が現在九社あるそうなので、基本的には天文台関係車両以外の一般車は18台しか登れないということになる。


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