以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      旅紀行      VOL. 39 / 2002.02.15

ハワイ島、星空ウォッチング

(国立天文台Homepageより)

 三泊五日の忙(せわ)しい日程ではあったが、2月の10日から14日までの行程で三度目のハワイ島を訪れた。出発日の10日の気象予報では日本は東北から島根まで各地とも積雪で、東京都心にも細雪が舞っていた。予報に違わず、夕刻の成田空港第2ターミナルはダウンジャケットが手放せないほどの寒さであった。しかも、JALのハワイ島コナ空港直行便のキャビンは後部座席まで一席の空きも無い繁盛振りで、不況の最中にも拘らず、不況、何処吹く風とばかりの超満員で嬉々とした声が賑やかに飛び交い、騒がしい程であった。

 成田から6000km、JAL直行便で6時間半のフライトの後、ハワイ島北西部のカイルア・コナのコナ国際空港には猛烈な強風が吹いていた。巨大なジャンボ機が強風に煽(あお)られて木の葉のように右に左に激しく横揺れしながら滑走路を目指す。滑走路に翼が接触するんじゃないかと一瞬ヒヤッとしたが、何とか滑走路に無事に着陸したときは心底からホッとした。手に汗を握るように知らぬ間に硬直していた身体がスーとほぐれて行くのが分かった。

 着陸直前に飛行機の窓から見えた標高4170mのマウナロア山の山頂には厚く積もった真っ白な冠雪があった。常夏のハワイを忘れてしまいそうな雪である。これにはビックリした。昨年も同じ2月に訪れたが、その時は余りの暑さに日本から着てきたセーターと下着を脱ぎ捨て、トランクの中から引っ張り出したアロハシャツにそそくさと着替えたことを思い出す。

 年によってこうも違うのか。それとも、ハワイ島も異常気象なのだろうか。常夏のハワイどころか、成田よりほんの少しばかり暖かい程度で、今年のコナコーストはダウンジャケットを羽織っていても丁度良いくらいの気温であった。震えるような寒さ、と言えば大袈裟だが、恐らく20度はなかった筈だが、16度前後の気温だっただろう。

 過去、オアフ島マウイ島やカウアイ島をいれると、ハワイには6回訪れているが、今回ほど寒いハワイは初めてである。今回のツアーにもハワイは初めてという人が数名いたが、パンフレットに書かれた常夏ハワイと、現実との余りのギャップに面食らった人も多かったのではないだろうか。南国ハワイにも本格的な冬があることを改めて認識させられた旅であった。

 コナ空港の素朴なテントハウスのイミグレーションで入国手続きを終えて空港の外に出ると、これから訪れるキラウエア火山を案内してくれるジャックス・ツアーの大型バスが待っていた。

 ジャックス・ツアーのガイドさんに今年は寒いですねと話し掛けると、昨日まで三日間、雨が降り続いていたんですよ!という返事が返って来た。稀に見る大荒れの天候だったらしい。

 ハワイでは雨が三日間も降り続くこと自体が極めて珍しく稀有(けう)なことなのである。20年くらい前までは「ハワイで丸一日雨に降られたらツアー代金を全額返却します」という触れ込みのハワイツアーがあったくらいである。着陸寸前、突風に煽られて飛行機が大きく横揺れしたのも大荒れの天候の所為だったようである。

 コナ空港から観光バスで一路西海岸を南下し、キラウエア・ボルケーノ公園を目指す。強風に塵が吹き飛ばされたのだろう、ただでさえ清く澄み切っているハワイの空は更に澄み渡り、バスの窓から見る青空はどこまでも透明で高い。太平洋の遥か彼方の水平線が驚くほど綺麗に見える。どことなく、水平線が微かに球形を帯びているのが見てとれるように感じた。ハワイ島の周辺に鯨の群れが現われる季節なので、潮を吹いている鯨や遊泳している鯨が見えないかな、と期待して窓ガラスに目をくっつけて海面を凝視したが、残念ながら見つけることは出来なかった。

 ロイヤル・コナ・コーヒー・ミュージアムで暫しの休憩を取って、更に南下する。時差と長旅に疲れたのだろう、旅の仲間の殆どがぐっすりと眠りこけている。アメリカ合衆国の最南端サウスポイントの岬を遠望し、黒砂海岸Black Sand Beachを経てキラウエアの近くまで来たところで驚くような光景に出会った。いつもはキラウエア火山の噴煙によって霞んで見えない標高4169mの巨大で雄大なマウナロア山が眼前に手に取るようにはっきりと見えたのである。

 この地は昨年も一昨年も訪れているが、こんなに綺麗に見えたのは今回が初めてである。しかも、200kmほど離れた遥か彼方のマウナケア山頂の真っ白に輝く冠雪までも遠い地平線にくっきりと浮かんで見えた。赤茶けた砂漠のような平原の彼方に冠雪が白く輝く光景は常夏の国ハワイからはとても想像できない素晴らしい光景である。絵葉書にでもなりそうな絶佳なる絶景である。まさしく「もうひとつのハワイ」を見た感じがした。

 ハワイ島に着いてから三日目にハワイ島最高峰のマウナケア山頂を訪れた。4200mの地に立つ日本が世界に誇るすばる望遠鏡の天文台と山頂からのサンセット見物、そして標高2800m地点にあるオニヅカセンターでの夜間の星空ウォッチングである。東海岸の、ハワイ島最大の町ヒロを午後3時過ぎに出て、高地仕様の4輪駆動車でマウナケア山へと向かう。何気なく窓の外を見物していると、ヒロの市街が切れて路面が山道に変わる辺りのところで、店の板壁に「Last Shop(ラストショップ)」と書いた看板を無造作に打ち付けた店があった。「この店が最後の店ですよ。ここから西海岸まで店はありませんよ」というメッセージだそうである。

 隣に店が出来たら、きっと看板も移転するのだろうなと思いを巡らしながら、アメリカ人の親切さとサービス発想を垣間見たような思いがした。余りに事故が多発するために保険会社も損害保険を断るという有名なサドルロードの入り口近くであった。サドルロードとは、ハワイ島のヒロとコナを繋ぐ唯一の横断道路で、日本語に訳せば「鞍部道路」という意味になる。4205mのマウナケア山と4167mのマウナロア山の間の馬の背のようなところを走っている荒涼とした溶岩高原の中の全長170kmの道で、標高1600m以上の高地が延々と続く。最も高い鞍部は標高2000mくらいもある。

 マウナケア山頂の天文台村へはこのサドルロードの中間地点の最も高い2000m地点にある唯一の交差点から北へ折れて登る。殆ど直線的に山頂の4200mまで登ることになるが、途中2800mのところにあるオニヅカセンターで高山病に罹(かか)らないよう、高地順応のために45分ばかりの休憩をとる。オニヅカセンターは、1986年1月28日、打ち上げ直後に爆発して全員が死亡したスペースシャトル「チャレンジャー号」の日系人宇宙飛行士の名前を採って名付けられた施設で、星空ウォッチングや高地順応のための休憩施設である。

 オニヅカセンターを出発して、道路の両脇に草木が全く無く、荒れ果てた砂漠のようなところを走っていると、道路端に「3776m」と書かれた小さな標識が立っていた。ここが、富士山の頂上と同じ高さか!。その高地を車が快適に走っているのだから驚き!である。しかし、時速30qくらいで登る4輪駆動車の中にいると、急峻な道路は更に上へ上へと続いているので富士山の高さといっても全く実感が湧かない。むしろ、3776mの高さとは、こんなものか!と低く感じる。

 20分くらいで頂上に到着する。午後5時半過ぎの山頂は零下5度くらいで凍えるように寒い。山頂には25cmくらいの積雪があった。見渡せば、一面真っ白な雪景色である。マウナケアの山頂は国際天文台村と言われるだけあって、様々な形をした世界各国の天文台が13基あり、それらが夕陽を受けて積雪の中で銀色に輝く景観は壮観であった。

 すばる天文台とケック天文台の向こうの雲海を真っ赤に染めて雲海の中に沈む夕陽の美しさにただ見とれる。これが、彼の有名な山頂から見るハワイアンサンセットか!海上に沈むハワイアンサンセットも美しいが、山頂から見るそれは夕陽の輝きが強力なだけに、もっと鮮烈である。

Hawaiian Sunset from Mt.Maunakea

 山頂からの帰途、オニヅカセンターに立ち寄り星空ウォッチングをする予定であったが、残念なことに雪雲に遮られて見えず、しかも、霙(みぞれ)混じりの雨!まで降ってきた。星空鑑賞を諦めて帰途に着いた。ところが、かなり走ったところで何気なく車の窓から夜空を見上げると、天空はキラキラと輝く満天の星空であった。標高1600mか1800mくらいのところであったが、窓越しに見た星空の何と綺麗かったことか!そこで急遽、サドルロードの脇のガールスカウトのキャンプ場の空き地で星空ウォッチングをすることにした。

 日本では地上の明かりに遮られて霞んだように微かにしか見えない星空が、さすがに北半球で最も空気が澄んでいると言われているハワイ島だけあって、ダイアモンドやルビーやアメジストなどの宝石が空一面に散りばめられたように輝き、その色彩の美しさには目を見張るものがある。そして、その大小色とりどりにキラキラと輝く宝石群の中を流れ星が数筋流れて消えた。正しく、星降るハワイという歌の世界である。

 天空に輝くオリオン座の四つの星、赤く輝く星、青白く輝く星、北方の地平線の上に輝く北斗七星、視力の良い人なら肉眼でも見える土星の輪、すーっと糸を引くように流れた流れ星……。星に祈りを捧げたハワイアンの人達の気持ちが分かるような気がした。明け方の4時ごろには、南の地平線上に南十字星が見えるらしい。


Enter From 検索  UpDate & Back Number Index Home Tour Gourmet Culture Business Profile