以久遠氏の Beauty,Business & Favorites 食紀行 VOL-04 / 1999.2.1号
伊豆の東海岸、伊東の街中の国道135号線を南に下り、途中、川奈ゴルフ場で有名な川奈ホテルの看板のところから海岸に向かって左に折れ、県道109号線に入る。国道下の、海岸沿いの狭い脇道で汐吹公園の脇を通る道路である。家一軒無い海岸沿いの狭い道を走っていると、途中に全長200mばかりの潮吹きトンネルがある。道路の周辺には家一軒見当たらない。こんなところに料理屋さんがあるのだろうか?と一瞬不安になる。
そのトンネルを抜けると道路沿いに小さな集落が現れ、漁師料理の店「海女(あま)の小屋」という看板を掲げた店が二軒あった。本店の与望亭と支店の海上亭である。伊東の市内から30分ばかりで着く。本店の与望亭は道路の内側に建っている。二階建ての立派な料亭造りである。海上亭はその名の通り海上にせり出すようにして建っていた。磯の上の木造平屋建で、遠くから見てもそれと分かる大きな建物である。我々は海上亭に入った。
海にせり出すように建つその店は、板張りの床に座布団を敷いて食べるようになっている。100人くらいは坐れる広い板張りに、如何にも頑丈そうな木製の大きな卓が並んでいる。名前通りの鄙びた造りで、磯の香りの強そうな小屋仕立てである。波の高い日にはしぶきが店内にまで飛んで来そうである。
「海女の小屋」の料理は、如何にも漁師料理の風情に溢れている。荒っぽい包丁捌きと、素朴な料理法で海の幸を食べさせて呉れる。煮る、切る、焼くという原始そのものといった料理法が却って新鮮である。刺し身も荒煮も豪快な包丁捌きで、京料理のようなちまちまとした料理ではない。
見るからにざっくりとして如何にも海の男の料理である。その日に獲れた魚を料理するのであるから、素材の味を活かすためにはむしろ出来るだけ刃を入れない方が良いのかもしれない。
私は蟹の味噌汁を頼んだ。かなりな時間待たされて届いた味噌汁には、椀縁に足を掛けて椀から今にも逃げ出そうとしている格好をした大きな蟹が一匹丸ごと入っていた。一人では食べ切れない程の量である。足を折り、甲羅を剥がして、蟹味噌と身を賞味する。美味い、実に美味い。
刺し身と荒煮とご飯を五人でつついたが、食べきれないくらいの量であった。大きな丼の中に豪快な蟹(かに)が一匹丸ごと入った味噌汁が1500円というのは、一見高そうであるが、賞味してみればむしろ安いという気になる。それほどに美味い。
大してPRしている店のようにも思えないのに、こんな鄙びた分かり難い場所を、皆、どうして知っているのだろう?三ヶ所に分かれている駐車場はほぼ満杯であった。車のナンバープレート見ると、大半が東京からのお客である。恐らく口コミで広まった、知る人ぞ知る店に違いない。伊東の駅前にも伊東駅前店という支店がある。