国鉄が民営化されて20年くらいになると思うが、随分と親切になったものである。お陰で、旅がし易くなった。こう書くと、「駅員の態度は大して良くはなっちゃいないよ」と苦々しい苦言が飛んで来そうである。その点は私も同感だが、私の言っているサービスとは、実は旅のパンフレットのことである。
旅のパンフレットは、全国、どんな片田舎の駅でもよく見掛けるようになった。駅の待合室の片隅や壁際に会議テーブルのような台を置いてその上に積み重ねられていたり、気の利いたところではキチンとカタログ台に並べられていたりする。それも、温泉だとか、祭りだとか、春だとか、夏だとか、いろんな行事やジャンルに分類されている。
初めて訪れる旅人にも極めて分かり易く、親切で、希望するものが探し易い。しかも、内容が極めて濃い。下手な旅案内の出版物よりも気が利いているものが結構多いのにはびっくりする。例えば、JR東日本が今出している東北新幹線20周年特別企画と銘打った「宮沢賢治という宇宙の旅」という四つ折りの一枚もののパンフレットがある。
先日、東京駅北口の丸の内側のドームの広場に「東北の旅」コーナーが設(しつら)えてあったので、偶々そこで手に入れたのだが、童話「風の又三郎」で有名な東北が生んだ童話作家、宮沢賢治の生涯と作品と所縁(ゆかり)の場所を紹介したものである。変形のB4版の一枚ものの裏表にびっしりと写真と文章が詰まっている。この出来栄えが実に素晴らしく、思わず知らず隅から隅まで一息に読んでしまった。
大抵、旅のパンフレットには毒々しい色の賑やかな広告が嫌というほど目に付いて、本文を読む気にもならないどころか、手にすることさえ躊躇してしまうが、このパンフレットには菓子屋や旅館の目障りな広告が全くない。宮沢賢治のことだけが書いてあるだけで、商売っ気の感じられない爽やかなところが良い。全編、宮沢賢治関連だけのシンプルなワンポイント案内である。
宮沢賢治の花巻川口尋常高等小学校時代から花巻農学校教師の時代、そして羅須地人協会時代、東北砕石工場技師時代を経て亡くなるまでのことが実に分かり易く書いてある。私も知らないことが沢山書いてあって、一読しただけで宮沢賢治の人となりが何となく理解出来たように思えて来る。電車通勤の帰り途、シートに腰を下ろしてじっくり読むと20分ほどの量があり、結構読み応えがある。読み耽る内にパンフレットの中に引き込まれて、読み終わったときには宮沢賢治が生まれ育った花巻の街を訪れたくなる。
JR東日本の広報部門が作ったのか、あるいはそういう専門の業者に企画させて作ったのか定かでないが、いずれにしてもJR東日本がこの企画を採用するまでのレベルになったということだろう。国鉄民営化の効果が現れているように感じた。民営化以前の国鉄時代には想像できなかったことである。