以久遠氏の Beauty,Business & Favorites       ビジネス     VOL. 45 / 2002.08.15

哲学ビジネス   

 8月6日の日経産業新聞1面の「大学 知の工場」という欄にいいニュースが載っていた。大企業の経営者が自主的に哲学の研究会を開いて勉強しているという記事である。実学流行りの中で直接利益に結びつくとも思えない、というより利益追求という面から見ればむしろ相反するような哲学を何故見直しているのだろうか。

 数十年前の重厚長大の時代においては、会社の格というものが非常に重要視されていた。一流であるか二流であるかは世間が認めた評価によって決められていた。それが、最大の利益を挙げる会社が良い会社である、というように評価が変わって来たのは軽薄短小の時代に入ってからである。それからの数年というもの、利益至上主義一辺倒となってしまった。

 一流企業とは大きな利益を挙げる会社であり、一流の経営者とは大きな利益を挙げる人である、という思想が蔓延したのである。善悪良否の基準は全て利益の大小という思想がビジネス界に蔓延(はびこ)ってからというもの、現在の社会の様々な問題の原点は、高度成長時代に蔓延したこの思想によって効率化と利益至上主義になったところにあると言っても過言ではない。効率化はマニュアル社会を創出し、哲学を葬った。そして、利益至上主義が自然環境を破壊し、人間の将来に不安を惹き起こした元凶となったことは間違いない。

 哲学セミナー開設の答えは、経営者には高邁な人格が必要であるという結論に達したことであるらしい。哲学によって、人格を磨くのだというのである。その潮流は確実に強くなって来ているように思う。何故なら、重厚長大時代の始まる前に政財界のトップが心酔していたのが前号で紹介した最後の陽明学徒と呼ばれている安岡正篤氏であるが、彼の著作が静かなブームとなっているところに現れている。

 私は常日頃からマニュアル社会の到来に大きな危惧を抱いていたので、今更という観、無きにしも非ずであるが、少数の経営者といえども哲学に目覚めて、哲学によって人格を磨き、哲学の思想を企業経営に活かさねばならないということに気付いたことは素晴らしいことである。このセミナーは、企業のトップという超多忙な人たちが5泊6日という長期間に亘って日常の業務から離れ、古典文学や芸術一般、歴史や政治学、哲学や論理学、天文学や生物学などの、経営の実学からは遠く離れたこれらの分野について一心に勉強をしているのだという。

 21世紀の課題である自然・生命などの原点となる分野の幅広い勉強である。これからの時代はこれらの幅広い知識と見識を有している経営者と企業がリーダーシップを取らなければならないという考えが現れて来たのである。

 利益至上主義の高度成長時代においては、企業の社会的責任という意識が薄れ見掛けだけの社会貢献が流行った。そのことは裏から見れば、案外、経営者の意識の底に微かながら利益至上主義への懐疑心と懺悔の念が残っていたのかもしれない。利益至上主義の科学技術が細分化され深くなった一方で、経営者に深い知識と尖鋭的洞察力と総合的な視点で生かせる人材を養成するという趣旨でセミナーが開かれているのだそうである。


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