以久遠氏の Beauty,Business & Favorites       食紀行     VOL. 46 / 2002.09.15

虎ノ門、ハヤシライスの「レストラン立山」

 最近、ハヤシライスを食べさせて呉れるレストランが少し増えて来たように思うが、残念ながら余り美味い店はない。恐らく、その理由はカレーライスと同じ感覚でハヤシライスを気楽に作っているのだろうと思う。その証拠に、カレー粉の代わりにトマトケチャップを使い、豚肉の代わりに牛肉を使っているだけの、人参やジャガイモが入っているハヤシライスばかりである。多分、手軽に作れる料理ということで復活して来ているのだろう。ハヤシライスがカレーライスと語感が似ていることからカレーライスのようなものを想像する人もいるようであるが、ハヤシライスはれっきとした牛肉の煮込み料理である。

 最近、ファミリーレストランのメニューにも載るようになったが、一時はハヤシライスを食べようと思ってもなかなか店がなかった。昔、「ハヤシライスなら立山」と言われた虎ノ門の「レストラン立山」では、今もハヤシライスを食べさせて呉れるのだろうか?

 レストラン立山は、虎ノ門の交叉点を皇居の桜田門から南へ延びている桜田通りを下って、虎ノ門病院や消防会館のある方へ行く。消防会館の隣に全国家電会館ビルがあり、その地下がレストラン立山である。家電会館の地下のほぼ半分くらいの広さがあり、個室も大小あるので様々な会食にも利用できる店である。当時は、女店員さんは髪に純白のヘアーナプキンを着け、大正時代の洋食屋のウェイトレスのような紺地に白の縁取りの入った清楚で古風なユニフォームを着ていた。テーブルには白いクロスが掛けられ、背の高い椅子が並んでいた。

 ハヤシライスは、英語ではHashed Rice(正式にはHashed Meat And Riceと書く。カタカナで書けば「ハッシュライス」である。それが明治時代の人には「ハヤシ ライス」と聞こえたようで、昭和40年ごろまで街中の昼飯レストランによっては「林ライス」とメニューに書いているところもあったくらいである。従って、林さんという人が考案した料理だろうと思っていた人も多かったようである。

  「Hashed Meat And Riceという正式名称が最も内容を示している。Hashとは肉などを「細かく切る」という意味である。従って、牛肉を細かく切って、同じように細かく刻んだ人参やキャベツやサヤエンドウなどをトマトケチャップベースの汁に煮込んだものをご飯に添えて出される。カレーライスと同じような感じである。

 しかし、レストラン立山の評判のハヤシライスというのは、じっくりと煮込まれたグラタンに近いものであった。ジャガイモは入っていない。よく煮込んだグラタン風のものであるので、ジャガイモは崩れてしまうからだろう。他所の店ではお目に掛かれないオリ−ブの葉が一緒に煮込んであった。オリーブの葉は固くて食べられないが一種独特な香りがする。時間を掛けて込んであるために、トマトケチャップの甘い味はむしろやや焦げたような味に変わっている。この独特な焦げ味が柔らかくとろけるような牛肉と実に合うのである。

 レストラン立山のハヤシライスは東京一という評判の店であった。東京一ということは、恐らく日本で一番うまいハヤシライスのレストランということにもなるだろう。


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