以久遠氏の Beauty,Business & Favorites    巻頭   VOL. 46 / 2002.09.15 毎月15日更新 since 1998.12.15

君子交淡如水、小人交甘如醴  

 神田一ツ橋の学士会館の向かいに如水(じょすい)会館という一橋大学OB向けの学友会館がある。少しばかり歴史を感じさせる玄関を持つ瀟洒(しょうしゃ)なビルである。その如水会館の三階奥のロビーに、確か渋沢栄一翁の言葉だったと思うが、「如水会館」命名の謂れを詳説した額が飾られている。長文の大きな額であるが、読む人に感動を沸き立てる中々の名文である。如水というと、徳川大名で福岡黒田藩の初代藩主の黒田勘兵衛孝高(よしたか)が黒田如水と名乗っていたことが有名であるが、如水会館の如水とは「君子交淡如水」という礼記(らいき)から採られて命名されたものだそうである。(渋沢翁はこれに自分の思いを付加しているが…)

 礼記の本文に、「君子交淡如水、小人交甘如醴(れい:甘酒のこと)」とある。即ち、「君子の交際は淡きこと水の如し。小人の交際は甘きことべたべたとして甘酒の如し」という意味である。一般的には、「君子の交際は水のように無味淡白なもの」と解釈されている。「君子、危うきに近寄らず」という言葉もあり、君子は「冷淡で、拙くなると逃げ足も速い」というようにも解釈されているが、真実(ほんとう)のところはそうではない。

 「淡如水」の意味は、「水の流れの如く、絶えることなく永く変わらない交際をする」という意味も含んでおり、「君子は自分の領域と相手の領域をわきまえて、相手の領域に土足で踏み込むような失礼な付き合い方はしない」ということである。べたべたとした付き合いをする(あるいは好む)小人の方がむしろ逃げ足が速いのである。

 然らば、如水に言う「水」とは一体何を表現しているのだろうか?17、8年前になると思うが、西新橋に「長部(おさべ)」という鮨屋さんがあった。誰の書か忘れたが、その店の壁に「水」と題した額が掛かっていた。

    1.自ら活動して他を動かしむるは、水なり。
    1.常に己の進路を求めて止まざるは、水なり。
    1.障害にあって激しく勢力を倍加するは、水なり。
    1.自ら潔
(いさぎよ)くして他の汚濁を洗い、清濁合わせ入るるの量は、水なり。

 老子の「上善如水(じょうぜんじょすい)」をヒントに書かれたもののようであるが、味のあるいい言葉である。水に関わりのある言葉を探してみると、意外と多いのに驚く。一部を紹介しよう。

  「明鏡止水」

    無心の境地。静止した水と同様に、静かな澄みきった心境でいれば、誤りない判断を下すことができる。

  「智猶水也、不流即腐」

    水は絶えず流れていないと腐って使いものにならない。智 (頭) も同じで絶えず使っていないと駄目になる。日頃

    から絶えず頭を使っていないと、いざという時に名案は浮かんでは来ないという意味。後からよく「ああすれば

    よかった、こう言えばよかった」と後悔することがあるが、これを『愚者の後智恵』と言う。

  「知者楽水、仁者楽山 、知者動、仁者静」

    知者(ちしゃ)は水のように動き廻るが、仁者(じんしゃ)は山のように泰然として静かである。知者とは未熟者や若者を仁

    者は老練者を意味する。

  「上善如水」

    上善とは最も理想的な生き方という意味で、そういう生き方をしたいなら、水のあり方に学べと言っている。

    それでは、水のあり方とは何か。

     第一に、極めて柔軟である。水は方円の器に従う、ように、

     第二に、低い所、低い所へと流れて行く。謙虚である。低い所に身を置くのは、誰でも嫌がることだが、水は低い

         所、低い所へと流れて行く。

     第三に、物凄いエネルギーを秘めている。固い岩石をも打ち砕く。

  「水清無大魚」

    水清ければ魚住まず。『細かいことにまで目くじら立てるようでは、人々の支持は得られない。出来るだけ寛容な

    態度で臨み、小過は許して大綱だけを押さえるように努めるがよい』という意味。後漢の時代に西域の経略に活躍

    した班超(はんちょう)という人が、西域の経営の心構えについて聞かれた時に答えた言葉。

では、君子とは「スタスタと逃げ出す」人物だろうか?実はそうではない。しかし、君子のような人たちが少なくなった。

  「君子の過ちは日月の蝕の如し」

    君子は、過ちを犯すことがあっても、日蝕・月蝕のように少しも隠しだてせずすぐにそれを改め、人々はまた敬服

    するようになる。

  「君子は周して比せず、小人は比して周せず」

    「周」はあまねく行きわたる、「比」はべたべたくっつくさま。君子は広く人と親しむが、小人は小人数で党派を

    作りやすいものだ。

  「君子は道を憂えて貧を憂えず」

    君子は、道にそむきはしないかということを心配はするが、貧乏などは気にしないものである。

  「君子は諸を己に求む」

    君子は、自分に関する事はすべて自分の責任として受けとり、他人のせいなどにはしない。

  「君子は人の美を成し、人の悪を成さず」

    君子は人の美点長所を見付けて伸ばさせ完成させる。

  「君子は上達し、小人は下達す」

    物事を行うとき、君子は道義に従って行うので次第に立派になり、小人は欲にとらわれるので次第に堕落する。

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