日本国中を新幹線で旅していると、一つの旅で単行本一冊を読破するに丁度良い。そして、読書に飽きれば車窓から様々な風景が楽しめる。北国と南国の風景、太平洋側と日本海側、山間部と海岸部、そして四季折々のそれぞれの風景。しかし、最初の頃は物珍しさが先に立って行く先々の風景が新鮮で飽くことなく見物していたが、旅慣れするにつれて、山間部や海岸の風景にはさほど表情を持っているような印象を受けなくなった。車窓から見る田園村落風景にいささか食傷気味になったのかも知れない。
その所為か、最近は窓外見物よりも居眠りすることの方が多くなった。大体、半分ぐらいは居眠りで、残りの半分が読書と窓外見物といったところである。居眠りが増えたのは、老眼になって本を読むのが億劫(おっくう)になって来たことも原因である。本を読んでいるつもりがいつの間にか眠ってしまっているということがしばしばなのである。
ところがごく最近になって、車窓に飛び込んで来る城郭(じょうかく)の風景に若干ながら興味が湧いて来た。特にお城に興味を持っている訳ではないが、戦国時代から徳川時代の歴史は好きで、武将とお城という見方には興味をそそられる。飛ぶように走る新幹線の窓から「この辺には××がある筈だ」と遺跡を探すのも愉しいものがある。特に、城郭は歴史の一種独特な風情を残しながら地方の風景に馴染み融け込んで、自然と人との関わりを独特の雰囲気で醸し出している。空気の澄んでいる秋になったら、それぞれのお城を写真に撮ってみようかと考えている。
東京駅の丸の内ビル街の合間に見える徳川300年のシンボルである江戸城(皇居)を見ながら東海道新幹線を下って行く。関八州の南の果ての小田原駅の直ぐ傍に北条早雲の居城であった小田原城が再現されている。観光を目的として再建されたお城であるために規模が小さいのが惜しい。小田原から熱海までは伊豆半島の山間部を走るためやたらとトンネルが多いが、熱海の駅を出て直ぐのトンネルに入る直前に熱海城が一瞬だけ見える。上りの新幹線から見ると、錦ヶ浦の海からそそり立つ崖の上の熱海城の風景の方が絵になっている。しかし、ここも観光目的のために再建されたもので、小田原城と同程度の小さなお城である。
関八州から十石峠の下の長い新丹那トンネルを通って駿河路へ入る。三島を過ぎ、富士山の展望が素晴らしい富士川の鉄橋を渡って静岡駅に入る。静岡駅前には15代将軍徳川慶喜が大政奉還後江戸城から移り住んだ駿府(すんぷ)城があるが、ビルの陰になって見えない。掛川駅の近くになると新幹線からそう離れていない小高い丘の上に掛川城が見えて来る。小振りではあるが、城壁の白壁が綺麗ななかなか風格のあるいいお城である。矢作(やはぎ)川を渡り、桶狭間(おけはざま)の古戦場跡の近くを走って名古屋に入る。
名古屋駅前には立派な金の鯱鉾(しゃちほこ)を持つことから金鯱城とも呼ばれる名古屋城の本丸がある。残念ながら、ここもビルの陰になって見えない。名古屋駅を過ぎると数分で、新幹線の脇に建つ遊園地のように綺麗な清洲城が一瞬見える。織田信長所縁(ゆかり)のお城といううたい文句で観光客を呼ぼうという魂胆であるようだが、清洲城がこの場所にあったという証拠はないらしい。しかし、夕闇になると大手門の橋には雪洞があかあかと灯り風情が漂って綺麗である。
新幹線は広大な濃尾平野をひた走り、岐阜の斎藤道三の居城である岐阜城を大きく南へ反れ、大垣へ向かう。大垣周辺には大垣城跡、墨俣(すのまた)城、一夜城などの城址がある。残念ながらここも車窓より見物することは出来ない。天下分け目の関ヶ原の古戦場跡を過ぎ、米原駅を過ぎて彦根に近づくと、大老井伊直弼の居城の彦根城が遠望できる。琵琶湖畔の平野部の小さな小山の上に一際高く近江平野を睥睨(へいげい)するように厳かに聳えている。遠目にも格調の高さが見てとれる。曇りの日には霞んで見え難いが、晴れた日には遠く微かに遠望出来る。
彦根を過ぎると織田信長が建造した幻の名城、安土(あづち)城の跡がある。残念ながら、城郭が再現されておらず車窓からは見ることは出来ない。琵琶湖の傍の大津の瀬田の唐橋(からはし)を見ながら東山のトンネルを抜けると京都に着く。
京都には、駅からは離れているが徳川家康が宿所として建造した迎賓館二条城がある。東海道新幹線の終着駅大阪には、又の名を淀城とも呼ばれる豊臣秀吉や淀君で有名な大阪城があるが、勿論ここも新幹線からは見えない。夜の空路、大阪空港へ降りる間際、ライトアップした大阪城は実に綺麗である。
そして、新大阪駅を過ぎてから姫路までの間、暫くは何もない。ただ、西明石駅の隣の在来線の明石駅の真ん前に明石城がある。本丸は消失したままであるが、昨年、櫓が二楼再建された。勿論、明石城も新幹線からは見ることは出来ない。
姫路駅の辺りに来ると小高い山の上に白鷺城の異名を持つ秀麗な姫路城が見える。いつ見ても、何度見ても、その華麗な美しさは飽きさせず感興深いものがある。世界遺産に指定されるだけの風格が伝わって来る。新幹線の車窓から一番長い時間見物できるお城である。
姫路を過ぎると相生(あいおい)駅の先の海岸縁にお城は再現されていないが忠臣蔵の舞台となった赤穂城址がある。大手門だけが再現されているが、城郭はコンクリートの上に部屋割りの間取りだけが再現され畳が線引きで描かれているという不思議な城址である。しかし、何処からともなく歴史の息吹が感じられて来る。
姫路の先には岡山城や広島城などがあるが、東海道新幹線と山陽新幹線はまるで日本を代表する名城観光線といった観がある。ライトアップやルミナリエが流行っている時代である。もしも、それらのお城が、夜間も見えるようにライトアップされれば新しい観光新幹線となるだろう。