11月の下旬、会社から帰ってみると、食卓の上に水を張ったガラス器があった。その中に、直径1mm〜1.2mmくらいのぶどう状の、透き通った淡い黄緑色の小さな粒々が、細い緑色の茎に連なって並んでぶら下がって浮かんでいた。その不思議な植物は、まるで緑色のアクアマリンのように澄んだ綺麗な色をしており、実に可愛い球形をしていた。先日、沖縄を旅行した近所の知人からお土産に戴いた恩納村(おんなそん)産の「海ぶどう」というものだった。産地の恩納村は沖縄島の中央部、東シナ海に面した万座ビーチの南にある。
「海ぶどう」は食するのが惜しいくらい本当に綺麗な食べ物である。観葉植物といった方が適当なくらい食卓に優雅な雰囲気が漂い目を楽しませて呉れるが、なかなか乙なものであった。金魚蜂にでも入れて部屋の片隅にでも置いておけば、十分癒し系の飾り物になる。もし、食べ方を教わらなかったら、食卓に置いてあっても、飾り物くらいにしか思わず、多分、そのまま箸を付けなかっただろう。それほど食物らしからぬ食べ物である。食べ方を教わって、改めて食物を見る目で見直してみれば、やはり何となく海草には見えた。
昨年の5月、家族で訪れた時には那覇空港近くのロワジール・ホテル・オキナワに泊まったが、これまで「海ぶどう」のことは誰からも聞かなかったし、レストランのメニューにも記載されていなかったので全く知らなかった。11月に訪れた知人は沖縄島中央部の万座ビーチのホテルに泊まったそうで、そのホテルの朝食に出たらしい。知人も初めてだったそうだが、食してみると美味しかったのでお土産に買って来たとのことである。5月には無くて同じ年の11月にはあったところを見ると、季節食品かも知れない。
「海ぶどう」の食べ方は、冷やし素麺のように水をなみなみと入れた椀の中に海ぶどうを泳がすように浮かし、それをお箸で掬(すく)うようにして摘まんで、小皿の味りん醤油に浸けて食べるのだそうである。食べ方を教わってはみたが、余りの綺麗さに「はい、そうですか」と直ちにお箸を付ける気がせず、水の中に浮かんでいる可愛らしい「海ぶどう」を暫く覗き込んで楽しんだ。
暫くしてから教えられた通りに、味りん醤油に浸けて食べてみると、口の中でプチプチと小気味の良い音を立てる。数の子の倍くらいの大きさの粒だが、爽やかな歯触りは上等の数の子のようである。そして、モズクに似た味が仄(ほの)かに口の中に広がる。しかし、すこぶる淡白である。何となく酢醤油でも美味しそうだな、と思ったが、「海ぶどう」に酢を掛けると萎んでしまうらしい。
沖縄の食材としては、シャコガイの刺身も美味だったし、ゴーヤチャンプルも内地のものより柔らかくて仄かな苦味が程よく、美味さを見直したが、この「海ぶどう」というのはユニークな特産品である。緑色の粒と見た目の綺麗さから、別名「グリーンキャビア」とも呼ばれているらしい。見るからに如何にもミネラルが豊富そうな健康自然食品である。沖縄を北限として生息する海草の一種だそうで、テングサと同種らしい。
インターネットで調べてみると「海ぶどう」に関するホームページが数多く開かれており、最近では沖縄評判のお土産品になっているようである。「海ぶどう」は沖縄の珊瑚の海が造った食の芸術品と言っても過言ではない。