以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      ビジネス     VOL. 50 / 2003.01.15

京都パープルサンガと人の経営 

 2002年のサッカーで優勝した京都パープルサンガの優勝美談があちこちで語られている。テレビばかりでなく、私自身、ある会社の新年会や業界の賀詞交歓会などの場で数回聞いた。前半、負けっぱなしだった京都パープルサンガが後半に入ってから突然連勝に連勝を重ねて優勝した。

 その理由は、京セラの稲盛氏が「優秀な選手をスカウトすることはた易いが、私はスカウトはしない。君たちでやれると信じている」と現状のメンバーに語ったことがサンガの若者のやる気を生み出したからだと言われている。京都サンガの優勝をちゃっかりと自分の美談に仕上げてしまうのはさすが稲盛氏であるが、リストラ流行りの暗い世の中で、ノーベル賞の田中耕一氏受賞の経緯同様、名も無い人たちが功を意識せずに成し遂げた美談であることには違いない。ひょっとしたら、リストラの対象になっていたかも知れない無名の普通の人たちだからである。

 同じようなことはビジネスの場にもある。数名規模の企業は別として、どんな企業も一人の天才や一人のシンボリックなカリスマ的事業家によって動いているのではない。数多くの専門分化された部門であっても、多くのごく当たり前の平凡な人達によって支えられて動いている。一人の天才や一人のカリスマ的な傑出の事業家といえども、出来ることには限界がある。彼らに出来ることは、企業の流れを変えるための明確な目標である海路図や設計図を描き、夢を語ることくらいなものである。

 大企業の中でも、一部上場の歴史ある名門企業であればあるほど、社長や重役の殆どが一流大学出身者ばかりで占められている。現在は一流大企業の指定校制度が崩壊し、いろいろな大学の卒業生が採用されるようになった。増えたとは言っても、まだまだ二流大学や三流大学の出身者が採用されることは極めて少なく、学歴だけを見れば中小企業とは雲泥の差がある。しかし、二流三流の大学の出身者や低学歴者の多い中小企業の中にも、大企業に一歩もひけをとらない世界的な企業は星の数ほどもある。学業優秀な人が多ければ多いほど企業の力が増すという幻影を追いかけている人が多いが、決してそうではないのである。

 トップの夢に共感を抱き、使命感と野心(いい意味での野心:大志:ambitious)を持って行動する社員が多ければ多いほど、企業は見違えるような力を発揮する。学歴や知識の多寡よりも、個々人の野心や使命感やトップとの共感の方が大事なのである。京セラの稲盛氏が京都パープルサンガのメンバーに喋ったように、野心と使命感を湧出させ伸ばす経営が大切なのである。共感や使命感や野心は足し算効果や掛け算効果をもたらす。もしも、引き算や割り算になっていれば企業は悲劇である。一人のマイナスは、一人以上のプラスを相殺する。

 例えば、 100人の組織の中に 2人のマイナス者がいても2%に過ぎない。これくらいの数値であれば、乱暴な言い方をすれば不良率の許容範囲内に収まっているようなものである。組織全体に大きな影響を及ぼすことは考えにくい。しかし、どんな大企業でも組織の最小単位は5〜6名くらいなものであるから、5人の組織の中に1人のマイナス者がいれば 20 %の戦力ダウンとなり、こうなると到底見過ごすことの出来ない由々しき問題となる。組織が小さくなればなるほど、一人のマイナスを取り戻すことは至難のこととなるのである。

 従って、企業の大小を問わず、マイナスの発生しない企業風土を作ることが大事なのである。風土とは企業独自の価値観である。マイナスの発生しない企業風土とは、今風に言えば、個人の価値観を認容する複雑系の企業社会の構築ということになる。一人ひとりの意識と意欲に目標達成の責務感と使命感を芽生えさせることが足し算の風土である。さらに、使命感を野心のレベルまで引き上げることが掛け算風土を作り上げることになる。

 往々にして単一価値観の企業風土の中では、個人に企業エゴ的な義務感を要求する風潮が見られる。これでは、個人は企業に対して給料という債務の弁済としての職務遂行という義務を履行するだけにとどまる。所謂、給料分は稼いでいるという開き直り的な自己満足である。それ以上のもので応えようとはしなくなる。

 この、それ以上のものというのが、自己啓発や向上心であり野心である。即ち、自らの有する能力の 100%を発揮しようとはしなくなるのである。自己の持っている能力を100%発揮出来るのは自らの自発的な啓発によってしかあり得ないのである。組織を構成する個人の意識如何によって企業の力は強大にもなり、弱小にもなることを知らなければならない。


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