以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      ビジネス     VOL. 52 / 2003.03.15

クレームに目覚める  

 「クレームから逃げてはいけない」あるいは「クレームには体当たりしろ」とよく言われる。若い頃は、この言葉の真に意味するところが良く理解できない。従って、自分ひとりで悩み困るほどに、上司に対しての恨み辛みが嵩じて来る。「部下がどうしたらいいか分からず困っているのだから、上司なら助けて呉れてもいいじゃないか。何故、上司は俺を避けようとばかりするのか?」と思い込みがちであるが、実はそうでない。

 クレームには二種類ある。一つは器具のハード的なクレームである。「電源が入らない」とか「動かない」というような所謂「何とかしてくれ」という類の故障である。もう一つは、自分の言動に起因していることには違いないが、相手の思い違いや勘違いなどの誤解から発生する営業上のクレーム(マーケットクレーム)である。前者の場合は部品を交換するなど修繕して直してあげることによってクレーム原因は解消されるが、後者の場合は誤解という感情の修復をしなければならない。感情の修復は相手方の立場と自分の立場の両面から考えなければならないので、ちょっとややこしい。

 この、感情を縺(もつ)れさす誤解は何が原因で起こるか?大抵、双方の未熟さが原因で起こっている。売り手側の知識不足による説明不足や説明間違い、購入者側の理解不足による思い違いや勘違い、語彙(ごい)不足のために使った不正確な言葉による早とちりや誤解、表現力不足や説明不足から発生する理解間違い、…。双方の意思がお互いに通わず、疎となってしまっているのである。要するに何かが「不足」していることが「いい加減さ」と「曖昧さ」となって現われ、思い違いや勘違いの原因となることが多いのである。

 であるから、営業マンは「不足ない」営業トークを常に心しなければならないということになる。そのためには、会話のやり取りの一部始終において、曖昧さが生じないように確認行為と修正行為が繰り返しが行なわれなければならない。確認行為は確認部分を「繰り返して発言する」あるいは「相手に繰り返させて正しく理解させる」という会話手法をとることになるが、これがなかなか難しい。修正行為は相手あるいは自分が思い違いしていないか勘違いしていないかを確認するために、疑問には「問い」を、理解には「確認」を、という会話になる。やり過ぎれば「しつこい」「くどい」という印象を与えることになる。こうして意思が通い合えば、これが結局は効率的な営業につながる。

 マーケットクレームとは、概して、きちんとしたコミュニケーション、意思の疎通が出来ていないために発生しているのである。しかし、当事者は自分の非を認めようとはせず、大抵、「私はきちんと説明しました」と言う。更に「相手が分かっていないんですよ」と平然と相手の責任にしてしまうことが多い。ということは、裏から見れば、相手が分かるように説明していないということなのである。これでは営業マンとしてはまだまだ未熟者と言わざるを得ない。相手が理解間違いをしていないか、思い込み間違いをしていないか、自分の主張を正しく理解しているか、…といったことを確認しながら商談を進めるのが、売込みをする側の営業マンの務めであることを理解していないのである。

 クレーム処理にあたっては、自己の正しさを強く主張して相手の非を責めたり、会社方針や上司命令を自己主張の後ろ盾としがちである。なかなか、説明不足等の自分の非を認めようとはしない人が多いが、これは相手には言い訳や責任転嫁としか映らない。言い訳の一言一言が自分の信頼感を喪わせていることを知らねばならない。自分が仕出かしたことが原因であるからには、平つくばってでも自分の非を謝ることが修復の緒(いとぐち)となる。クレームを真剣に処理するとき、お互いが赤裸々の姿となるので、クレームを境にこれまで以上の信頼関係が生まれることは多いものである。これが「クレームから逃げるな」という意味である。

 相手に誤解を生じさせた原因が自分にあることを自らの責任として認めようとしない者は、クレームに対して、多く逃げる。逃げることによって顧客から「信用できない」という烙印を押され、相手にされなくなる。こういう営業マンは概して、あちこちで表沙汰にならない程度の些細な処理間違いを数多く犯している。大抵はその自覚がないために、知らず知らずのうちに有力な顧客を失っていることに気付かない。あるいは「しまった!」と自覚しても修復しようとしない。これで誠意が通じる筈はなく(もともと誠意がないのだが)、これが成績の上がらない理由である。


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