以久遠氏の Beauty,Business & Favorites ビジネス VOL. 56 / 2003.07.15号
経営とは人を経営することなり
松下幸之助氏が「経営の神様」と崇められているように、より多くの利益を出す経営者を「経営が上手い」人として崇める傾向がある。「経営が上手い」という意味の大部分は独創的な発想による経営と数値に強い経営が得意という意味である。独創的発想による経営とは決断力と実行力に富んでいることであるし、数値経営が上手いということは経営手法に優れているということを意味している。そういう意味では、不採算部門を切り捨て、余剰人員を解雇して企業の体質をスリム化して、病める巨像の日産自動車を数年で建て直したカルロス・ゴーン氏などは正に「経営の神様」ということになるだろう。
「事業は人なり」という言葉がある。これは「事業というものは経営する人次第で盛衰する」という意味であるが、「人」とは「より大きな利益を挙げることが出来る人」を意味している。ところが、過去に経営の神様の評価を得た人であっても、今、赤字を余儀なくされている経営者は「経営の失格者」という烙印を押されてしまうことは多々ある。利益というものは、事業を取り巻く環境次第で大きくもなり小さくもなるものである。にも拘らず、利益額の大小という眼前の現象の如何によって評価されているに過ぎないのである。
従って、「神様」という絶対的な表現をするのではなく、単に「時流を捉えることが上手い人」といったくらいに軽く評価すべきであろう。経営について如何に学問的に優れた知識を有していても、また実行力があっても、それを活かせる環境が存在しなければ、企業は大きな利益を得ることは出来ない理屈だからである。
経営という言葉を広辞苑で調べて見ると、「会社や事業などの経済活動を運営すること」と出ている。これから経営という言葉が生まれ、経営学という学問が出来たようであるが、経営学とは「会社や事業などの経済活動を運営する学問」ということになる。経済活動を「運営する」ことが学問というのには若干引っ掛かるところもあるが、いずれにしても、経営学という学問は何を研究するものであるかと言えば、「企業経営の経済的・技術的・人間的諸側面を研究する学問」ということである。
従って、単に経営手法だけに止まらない訳で、物事の「内面」、「外面」、「表面」そして「裏面」という諸側面から多面的に研究することが経営学ということになる。しかし、経済活動というものは全て人間の肉体的あるいは精神的活動に依るものである。即ち、考えるのも人、造るのも人、商品を選択するのも人、購入するのも人、利益をもたらすのも人、赤字をもたらすのも人、そして経営するのも人…、詰まるところ、何から何まで全て「人」から始まるのである。そして、その「人」の次に技術的面と経済的面が続いて来る。
従って、経営というのは、結局のところ「人を経営する」ことなのである。経営とはテクニックではない。人の心を経営することに尽きるのである。54号でも触れたように、知識だけでは人は動かないし、人を動かすことはできない。そして、人を経営する「人」を育てることの方がそれ以上に数倍難しい。