以久遠氏の Beauty,Business & Favorites       食紀行     VOL. 57 / 2003.08.15

山形、月山の「曲がり竹」の筍   

 私は筍(たけのこ)が大好物である。それも醤油で煮付けたものが良い。そのせいか、先月、山形市を訪れた折りに初めて食した「月山の笹竹のたけのこ」が強烈に印象に残った。「月山の笹竹の筍」は珍品であるらしく、竹の子の柔らかい葉皮を剥いて直径1cmにも満たない細く小さな竹の子に味噌を付けて食するのだが、殆ど味わう間も無く一口か二口でなくなる程度の量しかない。

 月山の山容はハワイ島のマウナロア山に似ており、お皿を伏せたような緩やかな形状の姿をしている。その月山(がっさん)に生えている細竹の細くて小さい筍である。月山の「笹竹」とか「細竹」と呼ばれている。筍は中国や東南アジアでも料理に好んで使われる食材であるが、食用になる筍の産地は大体本州までであるらしいから月山の細竹の竹の子はほぼ北限に近いと言えそうである。そう言えば、北海道には竹林自体が少ないように思う。本州以南では、筍は最もポピュラーな山菜であるかも知れない。

 月山の細竹の竹の子は大き目の平皿に青々とした笹の葉っぱが付いたまま三本並べられて食卓に出て来た。皿の片隅には麹味噌が小さく盛られていた。見るからに素朴な山菜であるが、なかなか上品な見栄えのするものだった。竹の子の長さは17〜8cmくらいはあるが、葉っぱを剥いていくと、食べられるところはせいぜい5cmくらいしかない。

 ポリポリとかじれば、三本といっても、味合う間もないくらいにあっという間に無くなってしまう。清らかで爽やかな味でなかなか上品な料理だった。ゆっくり味合いたくて、もう一皿追加した。一皿300円くらいで安いなと思って注文したが、今考えてみれば随分高価なものである。

 月山の細竹は「曲がり竹」とも言うらしい。雪解けの頃に、月山の豪雪で圧しひしゃげられて曲がった竹の子が残雪の合間から顔を出して来るのだそうである。それで、そのような呼び名があるのだと山形出身の友人が教えて呉れた。成長しても直径2〜3センチ程度の細い竹らしいので、筍も直径1cm足らずの細いものである。

 従って、筍の皮もそれほど付いてなく、皮を数枚むしれば真っ白で柔らかい身が現れて来る。そのままかじってみたが、清涼水のように淡白なだけで何の味もしなかった。それが麹味噌を付けて口に入れると、口の中で得も言えない味に変化する。孟宗竹の竹の子のように醤油で煮ても美味いし、味噌汁の具にしても美味いらしい。不思議な食物である。

 竹の種類によって筍の見掛けは随分変わる。細長いものもあれば、もっこりしたものもある。漫画チックにイラスト風に書かれている茶色の毛に覆われたずんぐりむっくりした最もポピュラーな筍は孟宗竹の竹の子である。北海道を除いた地域に植栽し、全国的にはこの筍が最もポピュラーで、スーパーで多く見掛けるものである。他には真竹の筍や四方竹の筍などが春秋の雨の頃に食用筍として店頭に並ぶらしいが、残念ながら私にはどれが真竹の筍で、どれが四方竹の筍であるかまでは判別が付かない。

 竹の子の食べ方自体は日本国中それほど変わりはない。味噌に付けて食べたり、味噌汁に入れて食べたり、醤油で煮しめたり、偶には焼いて食べたり、ご飯に入れて竹の子飯にしたりといったように色々な食べ方が出来る。こんなに食べ安いものはない。筍は実に手の掛からない食材である。栄養価があるのかどうか知らないが、最近は植物性繊維食品として見直されて来ているようである。

 日本中到る所に「竹の子料理」と銘打っている料理屋があるようだが、単に筍の白い身が現れるまで竹の子の皮を剥いたら、煮てもよいし、焼いても美味いし、そのまま食べてもよい。こんな手軽な食材を、あらためて竹の子料理と言うほどのものでもないようにも思うが、竹の子料理といえば、やはり京都である。

 京都の人たちは、北山の方で早朝に掘り出した筍を直ちに米糠を入れた熱湯でゆがけばアクが抜けて美味いと言う。筍の季節になると、朝の新幹線の京都駅構内にはお土産店の周辺に米糠付きの筍を販売する店が並ぶが、その値段たるやビックリするくらい高価である。直径13cmくらいの筍が一本1万円以上する。そんな高価なものが駅のコンコースの出店に平然と並んでいる。それが、あっという間に売り切れてしまう。

 さすがは特別な木屑の土壌で育てた「京都」の筍である。柔らかさが違うが、筍の味自体も九州のものに比べれば淡白であるように思う。京料理は味が薄いので、筍のアクが料理の味に微妙に絡むためにアク抜きにも神経質になるのだろう。私の生まれ育った九州は一体に料理の味が濃いので、筍のアクが問題にはなることは余りないように思う。もう暫くすると、秋の筍が食出来る季節が来る。竹の成長は早く、梅雨時の一時、秋雨の頃の一時を逃したら半年か一年待たなければならないので時期を失しないようにと思っている。


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