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仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌  

 この八個の文字は、人の名前にもよく見掛ける。誰もが、大抵、どこかであるいは何かで見たことがある筈である。言わずと知れた滝沢馬琴の超大作「南総里見八犬伝」に登場する「犬」の言葉を苗字に持つ剣士たちが大切に持っていた玉に刻まれていた文字である。年輩の人であれば知らない人はいないだろう。

 子供の頃に「南総里見八犬伝」の息詰まる展開に貪るように夢中になって読んだ記憶があるが、これらの言葉は、江戸時代から戦前戦中生まれの日本人の道徳観や価値観の基礎となっていたもので、人間の行動と善悪判断のバックボーンとなっていた道徳律であるが、戦後生まれの現代人の間では殆ど忘れ去られてしまっているものである。現代に生きている文字は金儲けのために知恵を絞るという意味で「智」ぐらいなものだろう。

 現代では、人間としてあるべき思考行動の理念であるこれらの言葉は、権利と義務という契約原理の中に埋もれてしまった感がある。それと共に、労わりと思いやりと助け合いと敬いという人間自身が本来持っている情感が希薄化して来ており、それは殺伐な事件の発生という形で顕われているように思う。

 親も教えず、学校でも教えず、先輩も教えず、巷の書籍を見ても哲学書を読む人は高齢者ばかりという世の中であるから致し方ないのかもしれないが、今の若い人の中には日本人の本質とも言うべきこれらの言葉の意味するところをきちんと理解できる人は殆どいないのではないだろうか。実に寂しい限りである。秋の夜長、ゆっくり広辞苑でも紐解いてこれら八個の文字の正確な意味を勉強し直すのも良いかも知れない。

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