以久遠氏の Beauty,Business & Favorites      ビジネス     VOL. 59 / 2003.10.15

 意識と視点を変える 

 ビューティフルな生き方が蔓延したバブルが弾けてから、日本経済は青息吐息の状態が10年以上も続いている。やっと、ここに来て先行指標がやや上向いて先行きに微かながらも仄明るさが見え始めて来たようである。底を這うような景気も何とか展望が開けるくらいにまで立ち直って来たような感じがしているが、衆議院総選挙の所為でなければよいがと危惧している。この十年は経済の基幹部分である企業の血の滲むようなコストとの戦いであった。しかし、この原因の大部分は自らが撒いた種によるものである。

 昔(昭和42年頃)は、生産工場の建物といえば「雨風が凌げれば良い」、製品には余計なコストを掛けるなという思想が徹底していた。従って、どんな大企業の工場も質素なもので、作業服もお粗末なものだった。昭和40年代の高度成長は、このような徹底したコスト意識が工場長以下全従業員に至るまで強烈に働いていた中で成し遂げられた。工場建物や工場事務所棟や研究室建物に過分の投資をすることはタブーであったのである。

 それが、高度成長の後に訪れたバブル経済になると、多くの経営者がバブル成長を自分の実力と慢心し勘違いして、生産工場といえども本社ビルと見紛うようなきらびやかな建物と設備と調度を備えた贅沢な建物が当たり前という風潮が蔓延(はびこ)り始めた。いわゆるビユーティフル時代の到来である。作業服は有名デザイナーの製作品となり、ガタピシの引き出しで苦労した木造の事務机はスチール製に置き換えられ、床に貼ってあった安いPタイルは角型の高級な絨毯貼りとなった。一挙に3倍〜5倍、物によっては10倍くらいのコストアップとなったのである。

 誰もそれに疑問を抱かず、むしろそれが当たり前という考えに陥ってしまったところに過ちの始まりがある。コストを売価に転嫁できた時代はこれでも十分成り立ったが、裏面ではこのような日本の高コスト生産体制は韓国や台湾などの開発途上国にとっては潜に追い風を呼び込む効果をもたらしていたのである。こうして日本は、自ら下げられないコストを作ったことによって、以後、長い苦労を強いられることとなった。結果としては、バブル期の慢心と将来展望が開発途上国に対する油断となったと言える。

 本来、生産設備は生産数量に見合った生産能力と機能とが適正規模でなければならない。私は昭和51年に盛岡の工場に赴任したことがあるが、その時、設備の生産能力を計算してみたら能力一杯の生産をしても利益的にはトントンという設定となっていたのには驚いた。これでは利益が出ないのは当然である。しかも不況の真っ只中でもあり、実際の生産数量は能力よりはるかに少なかった。こうなると減価償却費だけでなく、固定資産税も過分に納めていることになって、さらにコストを圧迫することになる。エライコッチャ!新規の高付加価値製品を作って販売するしか手がないと考えて直ぐさま開発に取り掛かった。

 製品のコストの中に固定的なコスト、それも、直接、生産性とは無関係のコストが折り込まれることは致命的である。特に、建物や調度品などの償却年数の長いものの金額が大きいことは長年に亘って減価償却費としてコストアップの大きな要因となる。右肩上がりの膨張経済の中ではさして目立つことはないが、現代のような経済規模が収縮するデフレ経済の中では日に日に大きな問題となって企業経営を圧迫していくことになる。こうなれば、部品やユニットの仕入れ価格を少々下げても企業経営は立ち行かなることは自明の理で、必然的に低コストの新たな生産拠点を海外の低コスト地に求めなければならなくなる。

 今述べて来たことは、ひとり生産部門や研究開発部門だけに限ることではない。営業部門においても管理部門においても同じことが言えるのである。生産部門は生産品目と数量という具体的な指示目標があるので個人が恣意的に新しい仕事をつくることは難しいが、営業や管理というのは職務の機能的特徴として、個人が恣意的にいくらでも仕事の範囲を拡げたり増やしたりすることが出来る機能を有しているところに長所があり欠点がある。

 職務として、何が必要で、何が無用無駄なものか、何がコストを下げる働きをするのか、ということを視点をゼロベースの水準まで下げて見直すことが大事である。営業的には、企業の利益という観点から見れば見捨てられがちな中にも、営業活動コストの低減という視点から見れば価値のあるものがある。個々の効果は小さくても、全営業マンの人数からみれば大きな効果をもたらすものがあることを忘れてはならない。


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