
小泉首相や石破防衛庁長官は、日本の国防にはアメリカとの安全保障条約、即ち日米同盟の堅密強化が必須であるという論法で強力に軍備化を進めようとしている。もともと中曽根元首相や小沢旧自由党総裁や石原都知事などは憲法改正の強力な推進者であるが、湾岸戦争からアフガン戦争、イラク戦争、北朝鮮の核問題と経て来て新旧議員のプロパガンダのボリュームが上がって来ている。
国民の大多数も何となく容認ムードとなって来ているように思う。それを受けて今回の選挙は特に憲法改正論議が姦しくなって来た。私は憲法を研究している者ではないが、大学時代に法律を学んだ者として言えば、現憲法は、国民のためには非常に良く出来ていると言いたい。世界的に見ても、日本国憲法ほど国民個人の基本的人権と自由を広範囲にわたって保障しているものはない。
むしろ、国民個人に自由な選択を幅広く保障しているという点においては世界に比類の無い素晴らしい憲法である。特に、「侵略する軍隊を放棄する」ことを明文化している憲法第九条を有することは世界に誇れるものである。多くの改憲論者は「戦後60年を経た今、進駐軍が作った憲法は改め、自前の憲法を持つべきである」という論理を展開している。フィーリング人間が溢れている現代向きの、極めて一般受けのする言葉であり、この言葉が感覚的な改憲論者を増大させているように思う。
確かに、現憲法は米国主導で作られたものであるが、だから悪いものであると即断することは合理的ではない。逆に、世界第二次大戦後の、世界が平和を求めていた時代に「戦争を起こせない」理想的な憲法が作られたということを、むしろ再認識すべきであろう。しかも、今よりももっと複雑な時代を60年間も改正することなく、わが国を支えて来た憲法であれば、尚更のこと改憲する必要はないと考える。何故?今更、戦争のできる憲法に改める必要があるのか?
憲法改正論議は戦後の直ぐから始まっている問題であるが、特に今回のイラク戦争に端を発して議論が沸騰している。国民の方にも、憲法改正は世の中の流れであろうから改正したらよいといったムードに流されているが、それも戦争を知らない世代の議論であるところに若干過激な面も出ているように思う。国連決議もないブッシュ政権の恣意的戦争に協力することが、あたかも国際社会への貢献であるかのようなマヤカシで正当化されようとしているところに大きな問題がある。
殆どの大国は、軍隊を持つことを明文化しているために「国民としての義務」として国民個人の選択を許さず徴兵制を強制的に義務付けている。憲法で「思想信条の自由」を保障しておきながら、自分自身の主義として戦争反対を唱える者に対して強制的に侵略戦争に参加させようとするのは国家権力の濫用と言っても言い過ぎではないだろう。
小泉首相や石破防衛庁長官の発言振りは、まるでブッシュのために憲法改正をしなければならないのだというように聞こえて仕方がない。憲法改正した後にブッシュが大統領選に負ければ、ブッシュとネオコンのために改正した憲法だけが残ることになる。平和と日本のあり方について毅然とした哲学もなく改正されるものだけに、益々歯止めが掛からなくなる危険性を孕(はら)んでいることについてはどう考えているのだろうか?
選挙を間近に控えた小泉首相の腹は、ネオコン勢力に操られているブッシュのご機嫌を取って自らの政権を維持しようという私利私欲に目が眩んでいるのだろうと思うが、内心には戦争に駆り出されるのはどうせ自衛隊だからという面も見え隠れしているようである。しかし、現在の自衛隊に多くの国民が応募して自衛官となっているのは、戦争を放棄している憲法九条によって生命の安心感があるからで、大半の自衛官は一般のサラリーマン同様生活の糧を稼ぐのが目的で入隊しているのである。
これが今次の国会決議によって「非戦闘地域への派遣」が可能となったが、戦争は国対国の紛争であるので、今は戦闘が行なわれていない地域でも突然戦闘が始まることがあり得るということは容易に推測できる。そして、そのような非戦闘地区においても毎日テロが横行しているのが現実の姿である。これが戦争であるにもかかわらず、「非戦闘地区」を設定することなどは詭弁を弄していると言われても反論できないのではないか?
それが憲法改正によって自衛隊という軍隊が誕生することになれば、法的には新たに「軍律違反」という犯罪が生まれることになる。そのような自衛隊への入隊希望者は、今後、激減するだろうし、現隊員の中からも除隊する人たちが増えるに違いない。そうして自衛隊からの除隊者が増え、また入隊希望者が激減して予定の人員が集まらなくなった時、政府は徴兵制度を作ってでも隊員を掻き集めなければならないことになる。
憲法を改正して国際貢献という名の下に海外派遣が日本国の義務となってしまったにもかかわらず、隊員不足によって国際貢献が出来ないことになれば、「憲法で軍隊を持っている国でありながら、何故、日本は軍隊を出さないのか?」と当然世界から批難されることになるからである。
これらの問題を解決し世界の平和を維持して行くためには、その目的のために創設された国連を利用するしかないだろう。各国は、日本と同じように、「防衛のための軍隊(日本的に言えば自衛隊)」を所有するだけにし、他国からの侵略に対しては国連軍が対応するようにすれば良い。そのために、国連軍に強力な武器増強が必要になるので、その分は各国が応分の資金を供出(世界税金みたいなものを作る)して最新鋭武器を備えることが出来るようにすればよいのである。
今次の憲法改正論議は、国家権力が個人の自由に制約を加え国家の権限を増大させようという危険な思想を孕(はら)んだものと言わざるを得ない。第九条の改正は必要なしという議員が僅かにいるが、その声が大きくなることを期待している。