以久遠氏の Beauty,Business & Favorites 旅紀行 VOL-05 / 1999.2.15号
ハワイには、昭和58年、平成5年、平成6年と合計三回行った。NN社時代、新規事業の開発を担当していた頃、産業視察でアメリカ西海岸のロスアンゼルスに行った帰りに立ち寄ったのが最初である。初めてホノルル空港に降り立ったとき、「初めての土地」という感じが全くしなかった。学生時代に仲間とハワイアンバンドを組んでいたので、ハワイの色々な知識を豊富に持っていたせいだろう。むしろ、祖母に語り聞かされて長い間思い描いて来た遠い故郷の土を踏んだような懐かしさと親しみを感じた。
二回目と三回目は、I社の創業百周年記念事業の事務局長をしていた時である。百周年記念社員旅行の幹事としての下見旅行と本番の百周年記念旅行の事務局としての業務出張であった。二回目は丁度10年振りだったが、出迎えのフラガールのウェルカムキスも昔のままで、一瞬の内に10年前の記憶が甦った。
結局、オアフ島に三度、マウイ島とカウアイ島に一度づつ訪れたことになる。残念ながら、ハワイ島、イリカイ島、モロカイ島にはまだ行ったことがない。機会を見つけて是非行ってみたいと思っている。
ハワイの玄関であるホノルル空港はオアフ島にある。一日何十便もの巨大な旅客機が世界各地から去来する。アメリカ本土からの飛行機は夕方到着し、日本やアジアからの飛行機は早朝に着く。その度に、白人から黒人まで大勢の観光客が巨大な航空機から吐き出される。やはり、日本人観光客が最も多いらしい。従って、午後の空港はアメリカ本土からの観光客で溢れ、早朝の空港は必然的に日本人とアジア人で混雑している。
ホノルルは高層ビルの建ち並ぶ国際色豊かな大都会である。この小さな都市にハワイの人口の9割、160万が生活をし、300万人の観光客が加わる。合計460万人の人で溢れている街である。産業と言えば農園とチョコレート工場があるくらいで、産業らしい産業のない大消費地である。高層ビルはいくらか増えていたが、ホノルルの街並みや道路は10年前と殆ど変わらず、昔の記憶を辿りながら迷うこともなく何処にでも行けた。
街の中心の、ダイヤモンドヘッドに向かうカラカウア通りにはホテルとマンションがひしめくようにして建ち並んでいる。ホテルから一歩通りへ出ると、露店のお土産店からゴージャスな構えの高級ブランドショップまで沢山の店舗が軒を連ねている。 人が溢れ、活気溢れる街である。
北緯20度の常夏の島でありながら、店舗に並んでいる商品には季節感がない。アロハや水着は勿論のこと、常夏の島には不似合いな毛皮のコートやブーツまで売っている。ノルウェーやスェーデンなどの寒い国からの旅行者も大勢来ているので別に不思議ではないのである。日本の観光地のおみやげ土産品屋に慣れている目には一種異様に映る。
値引き交渉
ホノルルは殆どの店で日本語が通じる。大体、価格票は25%〜50%くらい高く値付けしてあるので、値札通りで買うのは愚の骨頂である。「安くなるか?」、「いくらになる?」と堂々と交渉した方がよい。さもないと、とんでもない高い買物をすることになる。日本人は定価販売に慣れてしまっているので、物の値段を余り疑うことをしないが、ハワイではまるで詐欺のような商売が平然とまかり通っている。値段票は付いているが、同じ物でも平気で隣の店より一割も二割も高く表示している店もある。
行く先々のお土産屋がこうであるから、気取っていたら大損する。特に、日本人相手のお土産店でのショッピングは、恥ずかしがらずにどんどん値引き交渉をした方がよい。誰に遠慮することもない。店員もそのつもりでいるので、値切られても嫌な顔ひとつ見せない。その点、白人相手の店は大幅な値引きはして呉れないが、品質の良い商品が揃っていて安心できる。そのかわり値段もリーズナブルである。
値引き交渉の蝶々八篠(ちょうちょうはっし)のやり取りほど愉快なものはない。一言一言のやり取りに熱が入って、ジャンケンポン・ゲームのような楽しさがある。観光地でのショッピングの醍醐味である。相手は百戦錬磨の店員であるから、買い気を見せたら負けである。相手も心得たもので、決して売る気を見せない。
値切るコツは、買う素振りを見せながら、冷やかし客の素振りも見せなければならないという点である。相手を「この客は買う気があるのかな?ないのかな?」と混乱に陥れて、「この客は勧めようによっては買いそうだな」という印象も与えなければならない。ここまで来ると、相手は、何とかして衝動買いをさせようと必死になる。彼らの給料は大抵一日の売上の何%という歩合制が多いので、店員の売り込みの熱意と迫力には感心させられる。
頃合いを見て、「高い」、「予算がない」と言って立ち去る素振りを見せる。それでも、追い駆けて来るようであれば、振り返るようにして「10ドル、OK?」と指し値をする。こうすれば、大抵まけて呉れる。「お客さんには負けたよ」とはっきり言う店員もいて愉しくなる。ここに店員とお客の心理的なゲームの楽しさがある。
彼らは、日本人観光客は観光よりも買い物目的の方が多いことをよく知っている。従って、彼らの商い哲学には「日本人観光客は必ず何処かの店で買う」という確信的な強い認識があるので、これを原点にして売りつけるのである。同じ商品が隣のお土産屋さんにも並んでいるために、他所の店で買われるくらいなら、利益さえあれば、値引きしてでも先に売り抜けた方が得だという発想をするようである。
この点さえ押さえていれば、値切り交渉はゲームの様相を呈して益々面白味を増す。そして、巧く行けば吃驚するくらい安く買える。そういうことを十分に知っている彼らは、日本人には何が何でも売った方が得だという考えに凝り固まっているからである。ここが値切り交渉テクニックの肝心なところである。
一般的に、日本人観光客相手の店のお土産品は、台湾や韓国やインドネシアなどで造られた粗悪品が多く、ヨーロッパ製の高額商品や高級品は少ない。値段も安く設定しているように一見見えるが、決してそんなことはない。値段相応の商品が大半で、洗濯した途端、縮んで着られなくなるアロハシャツもあるようなので油断は禁物である。
その点、損害賠償意識が身に付いている白人を相手にしている店は値段も安くはない。値切り交渉しても嫌な表情を見せるだけで、余りまけて呉れない。しかし、粗悪品は殆ど無く安心して買い物ができる。商品に自信を持っているのだろう。リバティーハウスというハワイ最大の百貨店は地元の人たちが多く利用している店で、品数も多く、日本やヨーロッパ、アメリカで製造された品質の良い商品が多い。ただ、このような地元の人や白人相手の店は日本語の通じない店が多いので、英会話の苦手な人は英語の喋れる人に手伝ってもらう方がよい。
ホテル内にあるお土産店やブティック風の専門店で日本語の通じない店は、大抵、白人観光客相手の店と思ってよい。そんな店でも度々店を訪れて、片言の英語と身振り手振りで世間話をして店員と親しくなると、大して交渉しなくてもまけて呉れるようになる。一日の売上が目標に達しているときは25%くらいまけてくれることもある。
マウイ島やカウアイ島などホノルル以外のお土産店は、商品を眺めていると、傍に寄って来てしつこく売りつけて来る。「奥さんにどうか」、「娘さんはいるか?」、「彼女はいるか?」、「歳はいくつか?」…。機関銃のように質問が飛んで来る。顧客情報を得ているのである。そして、その情報を基に再び機関銃のように売りつけて来る。見事なセールスである。
オアフ島に比べれば、観光客が少ないせいだろう。「いくらになるか?」と聞くだけで、殆ど、なにがしかは値引きして呉れる。自分の方から勝手に値下げして来る店員もいる。その点は楽でよいが、元々、お客自体が少ないので大幅には安くならない。安く買おうと思うならホノルルに戻ってから買う方がよい。
日本語の通じない店では、難しく考えないで「Too much!」と言っが、大抵、それだけで「高すぎる!まけろ!」というニュアンスが通じたようで、直ぐ値下げしてくれる店もあった。
レストラン
日本人相手のツアー会社が紹介するレストランは、店員も日系や中国系などアジア系が多く、日本語が通じるので不自由しない。しかし、横浜や神戸の中華街に来ているような錯覚に陥って新鮮味が無い。折角、長時間掛けて外国に来ているのだから、どうせなら出来るだけ異国文化に触れたいものである。
そんな気持ちから現地人向けのレストランやショップに入って見た。現地人向けの店は殆どが白人のお客さんばかりで、日本人やアジア人のお客は滅多にいない。現地のビジネスマンやOL達、あるいは白人たちが行くレストランに入って片言の英語で注文してみるのもいい経験になる。
そういう店では日本人だけでなく観光客そのものに慣れていない店員も多く、スラング混じりの日常語でペラペラと問い掛けて来るので、入っただけですぐ分かる。「注文は何か?」と言っているのである。日本人向けのレストランであれば、メニューも英語と日本語の併記にしている店が多いが、現地人用の店には英語でしか書かれていない。英語が不得意な者にとって、メニューを指差して「これは、どんな料理だ?」と料理の内容を聞くのは一苦労する。なかなか通じない。
意思が通じないとアメリカの店員さんの中には怒り出してしまう人もいるから、尚更始末が悪い。「ここはアメリカだ」と、嫌と言うほど再認識させられる。言葉が通じないことほど途方に暮れることはない。他所の店に行こうかと思うこともしばしばで、シビアーながらも得難い体験ができる。きっと、一味違った楽しい思い出になる筈である。
大半の白人のウェートレスさんは、概ね親切である。片言の下手糞な私の英会話にも一所懸命理解しようと努めてくれるので、必死に身振り手振りの派手なボディーランゲージを交えれば結構通じる。しかも、観光客相手の店より量も多く値段も安くて、しかも美味い。一人前でも日本人には食べきれないくらいの量がある。三人で二人前を目安に頼むくらいで丁度よい。このような親切な店員さんだとチップも弾みたくなる。
見ていると、さすがに白人のお客さんたちはペチャクチャと賑やかに喋りながら、膨大な量の料理を見る見るうちに平らげる。外人女性の恐るべき食欲と健痰(けんたん)振りを見ると、改めてダイエットの本当の意味が理解できる。それからみると、日本女性がダイエットと称しているのは、実は栄養失調料理ではないかと思いたくなるくらいの豪快さである。