以久遠氏の Beauty,Business & Favorites ビジネス談話 VOL-06 / 1999.3.1号
以心伝心という言葉がある。敢えて口にしなくても、心と心あるいは気持ちが通じ合うという意味である。気持ちが通い合っていれば指示や命令が少しぐらい抽象的であっても、「あ・うん」の呼吸で目的や使命は明確に伝わる。では、「心が通じ合う」関係とは、どういう中で生まれるのだろうか?そして、そのような関係の中で人はどのような行動を取るのだろうか?
人の行動には、「・・・ねばならぬ(MUST)」という義務感から発する行動と、「(一肌脱が)ねばなるまい・・・(WOULD)」という使命感に基づく行動とがある。これは責任感に基づく行動と言ってもよいが、責任感と使命感とは微妙に差異がある。責任感とは自分の為である場合もあるし、他人の為である場合もある。しかし、使命感とは他人の為になす無償の行為であるところが根本的に異なる。
もちろん、これらの外に無意識の行動というものもあるが、ビジネスマンに無意識の行動は無意味であるのでここでは省略する。「ねばならぬ」行動というのは、命令だから、役割りだから、規則だから、約束だから、しきたりだから・・・・といった他主的な行動であるので、あらためて説明をする必要もないだろう。
「なるまい」行動が重要なのである。平たく言えば、「私がやらずばなるまい」、あるいは「よし、やるぞ」といった自分自身が得心したときにはじめて使命感として起こる自主的な行動である。行動の目的や効果が大きければ大きいほど、大きな使命感が湧いて来る。幕末の志士坂本龍馬が「日本を今一度洗濯致し申し候・・・」ととてつもない使命感を持って行動したのが良い例である。
使命感と義務感の大きな違いは、義務感に比べれば、使命感には不屈の挑戦心と強大な達成欲が伴うという点である。いい意味での密かなる野心(大志:ambitious)を抱くのである。そうなると、損得を度外視して、夜昼休日もなく一心不乱に捻り鉢巻で頑張り、「俺にもこんな凄い力があったのか!」と自分に驚き、新しい自分を発見することになる。「葉隠」が「おのれの才能を知ることはできない」とか、「損得だけで物事を判断してはいけない」と説いている通りで、これが大きな自信へとつながる。
従って、「可愛い子には旅させろ」とも言うように、若者に自信を付けさせるためには、「失敗を恐れぬ勇気」を体得させなければならない。そのためには敢えて、虎児を得るために虎穴に放り込むことが大事な教育なのである。最近、子供には出来るだけ嫌な目に会わせないようにする親たちが増えているように思うが、これは大いなる間違いだろう。
しかし、使命感というものは誰にでも湧くというものではない。使命感の基礎にあるのは自信である。自信のない使命感というものは存在し得ないのである。というのは、使命感は強烈な必達欲を伴うものであるから、達成するだけの力と自信のない人には使命感は生じないのである。言い換えれば、未熟な人や自信のない人には義務感しか生まれないということである。
往々にして自信過剰な若者を見ると、嫌悪感を抱いたり、貶(けな)したりする人がいるが、これは潜在的な使命感を摘み取っている恐れがあることを知らねばならない。従って、個々人に使命感が湧出するようにするには、先ず個々人に何でもよいから、何か一つ大きな自信を植え付けることから始めなければならない。個々人の人間性と能力と興味の方向などを見て、人に負けない絶対的なものを育ててあげなければならないのである。
葉隠でも「名人も人なら、吾もまた人」とか「どんな人間にも学ぶべき点がある」と言っているように、上に立つ者は個々人が有している優れた点を見つけ出し、その人の持っている能力を100%引き出してあげるようにしなければならない。自信のない状態は、まだ向上心の段階である。いわゆる、自己啓発がこれに当たる。即ち、まだ自らの成長のみを目指すものであって、一段上を目指そうとする点では野心に似ているが、まだ他人や社会のために何かをしようというレベルにまでは到っていない状態にあると言える。
ということは、彼らに使命感を期待する方が、むしろ期待のし過ぎということになる。自己啓発心を先ず野心のレベルまで引き上げることが出来れば、人は更に成長し、企業も繁栄することになる。従って、上に立つ者は、使命感や向上心を奪うような自己否定を強いるような言動だけは心して避けなければならない。部下が得心するまでじっと我慢して待つよりない。そして、機を見極めて的確な指示を出さなければならない。そうすれば、必ずや彼は野心を持ち使命感を抱く筈である。
「ああせい、こうせい」の押しつけ型や命令型管理は、部下に義務的行動を要求するだけであって、自信を育む育成型の管理ではない。得心のない行動は、悪い言葉であるが、見せかけの「ふり」の行動でしかない。これでは個々人の有している能力の半分も引き出せないだろう。
こうして時を待ち、若者に野心を抱かせ、やる気を自由に羽ばたかせる。そうすれば何もしないでも、10 %くらいの業績は向上する。業績というものは、経済環境もさることながら、個人の私心無き野心(大志:ambitious)、即ち使命感に大きく左右される。即ち、「やる気」を起こす風土を作ることが企業を大きく変質させるのである。