夏姫春秋

著者:宮城谷昌光。上・下巻。講談社文庫。

91年刊行、95年文庫化。
古代中国の美女、傾国の美女として悪名高い夏姫。 最近読んだ本からすると晋の名臣・叔向の妻・季ケイの母にあたります(笑)。 鄭の公女でありながら弱小国・陳の公族に嫁がされたのをきっかけに、 諸王たちが覇権を奪いあう戦乱の世の中を渡り歩かされるという、 とっても不幸な女性の物語です。
誰だったか忘れましたが、春秋という時代を日本の戦国期に例えるならば、 周王朝が天皇家、その他の諸侯が戦国大名たち。 特にその中の大国・晋と楚の政権交代を幕府に近いもの、と考えれば判りやすい。 のようなことを言っていた覚えが微かにあるんですが、言いえて妙な気がします。
ところで宋の首都が楚軍に包囲されたとき、援軍を求められた晋が解揚という使者を 送るくだりは、長篠の合戦のおりの鳥居強右衛門のエピソードそっくりです。 もっとも強右衛門は勝頼に殺されて、解揚は楚の荘王に赦される、という違いはありますが。 他にも似たような例がありまして、家康の息子、秀康と信康のエピソードなんかが、 晋の趙鞅が下女に産ませた無恤と長子・伯魯のやりとりにそっくりなんだな。
おそらくですけど、これ、どちらも実際にあった話ではなく、 江戸期になってから周王朝にまつわるエピソードを参考にして創られた話、 とみるのが妥当なのではないだろうか。 こういう例を目にすると、日本の戦国期のもっともらしい挿話の原典のほとんどが 古代中国の文献から見つかったりするかもしれない(笑)。

作品一覧へ

著者一覧へ