著者:羽山信樹。小学館文庫。作品一覧へ
「是れは謀叛か、如何なる者の企てぞと、御諚のところに、 森乱申す様に、明智が者と見え申し候と、言上候へば、 是非に及ばずと、上意候」(『信長公記』)91年、新人物往来社より刊行、00年文庫化。
タイトルがあの有名な台詞のこの本書は、 「信長公記」(しんちょうこうき・大田牛一著)の手法を借りた、 言ってみれば信長物短編連作集、といったスタイルの書き物です。 巻の一「政秀切腹の事」から始まり、 巻の十二「明智日向守逆心の事」まで12編、 文頭にさらっと信長公記からの引用文を載せて書き出すやり方は 実に上手い方法だ。大いに気に入った。
形式は信長公記でも、内容は独特の説を取り入れており、 それはそれで面白い物語にもなっている。 例えば、濃姫とは離縁説、明智逆心は秀吉陰謀説、などがそれ。
他にも面白い事は、それぞれの短篇の主人公が実は信長でないのだ。 その編によって事情は違うが、少なくとも信長は常に脇役の位置付けで、 信長の周辺を構成する人物達の心の葛藤を中心にして描かれている、 つまりはそのような小説なのである。