異聞 徳川家康 300年のベール

著者:南條範夫。学研M文庫。

86年刊行。02年文庫化。
「家康は戦国大名松平家の嫡子ではない。流浪の願人坊主だったのだ」、 一見トンデモ本かと思ったが、そうではなく、 明治35年にあの徳富蘇峰の東京民友社から刊行された 『史疑 徳川家康事蹟』とその著者、村岡素一郎をモデルにした小説でした。
明治35年の頃というのは、幕府に禄を食んだ人たちが権力の側に多く、 また部落差別が当然のように罷り通っていた時代だったので、 その始祖である家康を貶めるような説はその筋から反発され、 圧力をもって排斥されたようです。 それでも出版物はどうにか残っており、そこからこうやって もっともらしいストーリーを創っちゃうんだから、作家ってスゴイなあ、 と思うわけで。つまるところ、これも一種の歴史小説なんですね。
この本の面白いことは、この家康の出自の新説の内容そのものや、 それの信憑性について、ではなくて、 それをめぐっての議論の過程、というか、時代や組織の力関係による圧力などにより、 ベクトルが加わる様子がわかることでして。 我々が目にする「歴史」とはそのひとつの結果でしかないわけなんですね。
こういう話を読んで、あらためて思うことは、 歴史って難しいものだなあ、ということで。 徳川時代に既に十分過ぎるほど操作された史料の解釈をめぐってですら、 後世の時代の風潮に左右されてしまうのだから、 今は当然とされている「歴史」は果たしてどこまで信用してよいのやら・・・。
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