Summer Student 制度

 こちらの大学は,6月から3ヵ月という長期の夏休みがあるのですが,その期間,
やる気のある学生に対して,Summer Student という制度があります.この制度は
研究室に配属される前の学生(1ー3年)に対して,研究室の中で実際に仕事を
させてみるという制度です.
 カナダ政府もこの制度を奨励していて,毎年,一般企業に対して Summer Student
に対する奨学金を呼びかけています.優秀な学生は,この奨学金をもらいながら仕事
をすることになるので,私達ポスドク(博士研究員)と全く同じ立場なのです.
有給休暇3週間も取れますし.
 また,企業からの奨学金が取れなくても,太っ腹な教官の研究室に行けば,仕事の
最後にポンっと給料を出してくれたりもします.やる気のある学生を温かく見守る
雰囲気があるのです.

 昨年,私のいる研究室に来ていた Freda は大学1年から2年にあがるところでしたが,
とんでもなく優秀な子でした.普段の成績も優秀だったようで企業からの奨学金を
もらっていました.この子は生化学的な仕事から合成の仕事まで広く浅くやらされて
いたようですが,一を聞いて十を知る,というなんでも理解のできる子なのです.
人間的にもいい子で,いまでも付き合いがあります.この夏も Summer Studentを
医学部でやっているそうで,今回は完全に生化学の仕事だそうです.
 最近 Freda と話をしていたときに「今後,どの道を進むの?」と聞いたら,彼女は
「physics」と答えてくれました.つまり『自分の将来とは関係のない仕事だからこそ
今やってみたい』というとても建設的な姿勢な訳です.大学に入ってから進路を決める
という制度,Summer Student の制度ともに奥深さを感じます.

 今年, Summer Student として来ている Louise はおっとりした,マイペースの,
これまたとてもいい子です.この子の場合,授業に関する質問を私のボスにしに来た
時に,ボスから「ちょっと仕事をしてみないか」と言われたから来たのだそうです.
つまりボランティアなのです.私のボスのことだから,絶対に給料を出したりしない
と思いますし...
 この子にも将来の進路について聞いたら「geology か medicine」という全然違う
2つの選択肢をあげてくれました.本人は真剣に考えているようではあります.
大学に入ってからゆっくりと悩んでいられる様子をみるとうらやましく感じました.

 自分はとても賢くて何でも知っている,素晴しいアイデアを持っていて誰も真似
できない,なんて勘違いしている研究者がたくさんいます.今の私の研究室にいる
何人かもそうです.彼等は他人がやっていることは知りたがるのに,自分がやって
いることは誰にも話をしません.アイデアを他人に「盗まれる」ことをとても気に
しています.そういう連中の「アイデア」は他人の文献の内容そのままだったり
するのですが...
 こういう研究者が生まれてくるのは,自分の限界を知らないからなのだと思います.
だから,自分のやっていることが世界で一番で,共同研究者を単なるテクニシャン
としてしか見られないのです.ディスカッションなど決してしませんし.

 若いうちに,「研究とはこれだけ広く奥深いものである」ことを知ることができれば,
今後自らの手で研究を押し進めて行くに当たり,自分がどういう姿勢で望むべきかが
自ずと理解出来るのではないでしょうか.私自身,学部4年ー修士ー博士と研究室を
変えました.その中でも,4年次の研究室が,合成と生化学の両方が行われている
研究室で,その中に1年いて,生化学の実験の難しさや苦労を見たり聞いたりする
ことができました.その経験は,違う分野の研究者と話をするときに生かされている
と思います.

 その一方,研究室を動くことで,どうしても中途半端に終わる仕事も
出てきました.ですので,積極的に研究室を動くように勧めることもできないのが
現状です.Summer Student の様な制度があれば解決する問題であります.

 この Summer Student 制度は,一人の研究者を育てる上でも,一人の人間を育てる
上でも,非常に価値のある制度だと思います.日本でも積極的に(教官側も学生側も)
取り入れて欲しいものです.

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