|
啓林館の教科書『生物U』(第2部:進化と系統)のポイント
池田博明 
学習指導要領の改訂(平成6年度から。4単位理科2科目必修選択)によって,『生物U』(2単位)では進化学や分類学を扱えることになった。これまでの旧課程(『理科T』4単位必修,その後理科1科目4単位必修選択)の高等学校の教科書の進化や分類の内容といったら,まったくお粗末だった。進化論の内容は古いし,今西錦司のダーウイン批判の影響か,総合学説が無視されていた。こんな状態で,いいはずがない。そこで,私はできるだけ現代化を図ることにした。
まず,進化と系統は切っても切れない関係にあるのに,指導要領ではこの二つは別の章立てをしなければならないことになっていた。そこで,第1章は古生物学中心の展開,第2章は現生の生物中心の展開と大別した。高校で生徒が地学を履修する機会はほとんどなくなっているが,現代の地学や古生物学は大変に面白くなっている。そのことをなんとか生物の教科書のワク内で伝えたいと思った。
以下に示すような工夫をした結果,日本のどの会社よりもすぐれた『生物U』の教科書が出来たと自負している。『生物U』の教科書の使用が実質的に開始された平成6年度当初,他社の教科書は古色そう然たるものだった。ただし,平成10年の教科書の改訂により,他社も内容については啓林館同様の現代化を図ってきた。
第1章 生物の進化
見て楽しく,科学的に正確な図を精選した(全節)。
日本およびアメリカのたくさんの教科書を調べて,もっとも正確でセンスのいい図を選んだ。ひとつひとつの図に出典があることはもちろんである。
多様な現象を羅列するのではなく,教材を精選することによって進化を科学的に取り扱う観点を重視した。また,重要な事項は漏らさず収録した(全節)。
進化を考察するうえで最も重要な用語を最初の節にまとめた(第1節/進化の証拠)。
現代の新理論にもとづいて展開した(第2節/生命の起源)。
地質時代の生物の変遷を地史的な変化(とくに気候の変化)と結び付けた。そうしなければ単なる古生物の羅列になってしまうからである。読みやすく理解し易いストーリー性のある本文になったと思う(第3節/地質時代の生物の変遷)。
興味ある「読物」や「参考」によって,最先端の理論や観点を紹介した(恐竜温血説=ただし温血という用語は教科書検定により使用できなかったが。行動生態学)。恐竜の発掘は男の子の夢である。恐竜が大きく載っている教科書を作りたかった。
もっとも興味深い教材である「ヒトの進化」について特に扱った。
進化を科学的・統一的に理解できるように教材を精選した(第4節/進化のしくみ)。
選択や隔離の例は,その現象を理解するのに最良で,典型的な例を取り上げた(ガラパゴス・フィンチ,ガラパゴス・ゾウガメ)。
例示はダーウインに関連ある内容にこだわった。フィンチについては,その後,ワイリーの『フィンチの嘴』(早川書房)が出版されたので,理解しやすくなった。また,進化の例として,日本の身近な生物の例をあげて,自然保護および環境教育にも配慮した(ホタル,メダカ)。ホタルやメダカの例は種内変異を扱うのに最適な例示だったと判断している。
集団遺伝学はハーディ・ワインベルグの法則を中心に扱い,煩雑な計算をしなくとも,コンピューターを使った実習で,選択などによって平衡が移動する現象を直感的に正確に理解できるようにした(集団遺伝学)。生物Uの指導書にある表計算ソフトを使った遺伝子選択の計算法は,池田の工夫したもの。
★教科書および指導書の本文を見てみる → 【生物U第2部第1章】
|