アイルランドの薔薇  (光文社文庫)  [bk1] [Amazon]
アイルランドの薔薇 bk1 南北アイルランドの統一を謳う武装勢力NCF。和平反対派の副議長の殺害を殺し屋「ブッシュミルズ」に依頼したNCF幹部らだが、取引のため訪れたスライゴーの宿屋で、副議長が予想外の形で他殺体となって発見された。
宿泊客は八人――中には「ブッシュミルズ」も紛れ込んでいた。殺人犯は果たして誰なのか。
客の一人、日本人科学者・フジは、NCFのメンバーと渡り合い、協力し犯人を捜すことになる。

限られた舞台、登場人物でのミステリーだが、その設定はアイルランド和平のため、内々に事態を解決しなくてはならないという必然性があって無理なく成立している。ハードボイルドか社会派か、と思うような雰囲気が。その実態はクローズド・サークル。
読みはじめてから暫くは、「うーん、いまいちのれない」と思いながら苦労して読んでいたのだが、事件が起きフジが動き始めてからはもう一気読み。気がつけば、馴染みのないアイルランドという舞台での物語に引き込まれていた。
只者ではないフジに心のどこかでツッコミを入れつつも楽しんで読めた。「ブッシュミルズ」の正体は予想通りか。

ラストは少々語りすぎの印象もあったが、まぁジェリー視点だ。過去を振り返る男は概してセンチメンタリズムに溢れているものだよな……。
月の扉  (光文社文庫)  [bk1] [Amazon]
月の扉 不登校や自傷など、いろいろな問題を抱え苦しむ子供を、沖縄でのキャンプを通じて癒す石嶺孝志。離婚で揉める両親を持つ参加者の子供も順調に生きる力を取り戻していったが、子供の母親より誘拐だと訴えられ、逮捕されてしまう。
その三日後、沖縄・那覇空港で乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされる。犯行グループ三人の要求は、「師匠」こと石嶺を空港まで「連れてくる」こと。
ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、ハイジャック犯を困惑させる。計画に支障はないが落ち着かない――ハイジャック犯は乗客の一人を指名し、乗客死亡の真相を探るよう命令するが……。

ハイジャック中の旅客機という「クローズド・サークル」で繰り広げられる推理。ハイジャック犯が探偵役に謎解きを要求するというのは面白かった。

石持作品は、最初「最後まで読めるだろうか」と不安になるくらい乗り切れないのだが(笑)、気がつけば一気に読めてしまっている。パッとしないはずだった「なりゆきで探偵役になってしまった一般人」が、言いようのない魅力を持ちはじめるんだよな。座間味くんが今回のそれなんだが、良いキャラです。
ハイジャック犯の目的とその結果がややおさまり悪い感じがあって、微妙に気持ち悪いんですが……。おかしいなぁ、人の気持ちが重く取り扱われているはずなのに、この気持ち悪さは一体……。
心臓と左手 座間味くんの推理  (光文社カッパ・ノベルス)  [bk1] [Amazon]
心臓と左手 座間味くんの推理 bk1 警視庁の大迫警視は、東京である人物に再会する。沖縄で発生したハイジャック事件で知り合った「座間味くん」だ。
酒を飲みながら、大迫は自分が関わったり聞いたりした特殊犯罪――テロや過激派など――の終わった事件を語って聞かせる。ところが、座間味くんが終わったはずの事件に下した判断は、警察の出した結論とは違っていて……。
安楽椅子探偵モノの連作短編集。『月の扉』の座間味くん、再登場。

この本を読んだ時点では、そんなに石持作品をこなしていないのだが、もしかしてこの人は短編の人だったりはしないだろうか、と思った。長編では感じた冒頭でのとっつきにくさが全く感じられない作品の数々。
作品では『罠の名前』が気に入った。『月の扉』の後日譚になる『再会』は……気分の凹むエピソードだった……。

一冊に七本収録とは、通常に比べてかなり短い作品ばかりか。そう考えると一本一本が凄い切れ味。
描かれている事件はテロとかばっかりだが、その犯罪には意外と小さな人間が欠かせず、そのあたりも面白い。
セリヌンティウスの舟  (光文社文庫)  [bk1] [Amazon]
セリヌンティウスの舟 bk1 大時化の海の遭難事故をきっかけに信頼の強い絆で結ばれた六人の仲間。その中の一人、米村美月が、六人で集ったその夜青酸カリをあおって自殺した。
法要の後、集まった残された五人は彼女の死に思いをはせ、あることに不自然さを見出す。美月はどのようにして死んでいったのか。その死の謎について、五人は推理を始める――仲間を信じることをルールとして。

お互いの絆を信じるが故に、死んだ美月が「自分たちを危険に晒すような死に方をするはずがない」と考える五人。しかし、そうなると誰か自殺に協力者がいなくてはならない――そんな状況で、五人は必死に推理をすることによって、自分たち六人の信頼に一点の曇りもなかったことを証明しようとする。

犯人を追い詰めるためではなく、自分達の信じるものを守るために推理が進められている。ポジティブな推理なのだが、なんだかネガティブな印象も強いのは何故だろう。いってしまえば「気持ち悪い」なのだが。

そこに狙いはないかもしれないが、満たされること、それを守ろうとすることの歪さを感じた。うーん、モヤモヤする。
まぁ、読んだ後もこういった「ひっかかり」が読者の中に残されるのは「良い作品」と言って良いかなとも思います。
顔のない敵 (光文社)  [bk1] [Amazon]
顔のない敵 bk1 地雷撤去の進んでいない立ち入り禁止区域で地雷が爆発。現場には頭部を吹き飛ばされた死体が。果たしてこれは単なる事故なのか。(表題作)

対人地雷をテーマにした珍しい連作短編。全7本収録。
ある一本では被害者だった人物が、別の一本では探偵役に。ある一本では探偵役なのに別の一本では犯人で……と、リンクの仕方にちょいとヒネリがある感じで、そこはなかなか面白かったです。

しかし、とりあえず言いたいのはね……人殺したなら警察行けよ、おまいら!!(笑)
ミステリとしての謎の解決は力業な印象があるが、それよりも一部のキャラの性格の悪さが光る(笑)。主に小川一尉。『利口な地雷』での「次の罠に期待していますよ」はなかなかヒドイと思います。
作者はサイモンがお気に入りとのこと……なるほどなぁ、この作風だし……。
扉は閉ざされたまま  (祥伝社文庫)  [bk1] [Amazon]
扉は閉ざされたまま 大学の同窓会で七人の旧友がペンションに集まった。伏見亮輔は客室で事故を装って後輩の新山を殺害。外部から入室できないよう現場を閉ざした。その後も何食わぬ顔で旧友たちと過ごす伏見。しかし、なかなか部屋から出てこない新山に、メンバー達がいぶかしみだす。開かない扉を前に、メンバーから新山自殺説までもが浮上し、伏見の目論みは成功したかに見えたが、ただ一人、碓氷優佳だけが現場に疑問を抱く。
開かない扉を前に、息詰まる頭脳戦が始まる。

冒頭で犯行の手口や犯人が明かされており、それを探偵がどう切り崩し追い詰めていくか――という、いわゆる倒叙ミステリ。
どう犯人が追い詰められていくか、そのやり取りがスリリングだが、伏見が扉を開ける時間をコントロールしようとしていることのその意味に悩みながら読み続けさせられた。その理由は殺人の動機にも通じていて見事なのだが、ある意味、探偵役の碓氷のあまりにもアレな性質にそれすらぶっ飛んだ……。
ヤンデレ? ヤンデレなのか? ダークヒロイン?
その後の伏見が気になります、凄く……。
君の望む死に方 (祥伝社ノン・ノベルス)  [bk1] [Amazon]
君の望む死に方 bk1 膵臓ガンで余命六ヶ月を宣告されたソル電機社長・日向貞則は、生きているうちにしかできないことは何かを考え、社員の梶間晴征に自分を殺させる最期を選んだ。
社の将来を任せたいと思う梶間に、殺人を遂行させたあと殺人犯と断定できない形で自分を殺させる。そのために、日向は例年行っている幹部候補生の保養所での“お見合い研修”に梶間以下、四名の若手社員を招集する。
しかし、ゲストとして招いた一人の女性の出現が計画に微妙な齟齬をきたしはじめ……。

黒い探偵(笑)碓水優佳のシリーズ第二弾。
死を目前にした男が、ある人物に自分を殺させるべくあれこれ下準備をする。つまり、犯人に被害者がこっそり協力して完全犯罪を成し遂げようとするわけで。
という変な設定で犯行が行われるまでを描く。
そこに自己中探偵の優佳が現れ、かき回すのだが……もう少し優佳に日向、梶間らが翻弄されて予想外な方向に行ってくれれば良かったかなぁ。

誰が死んだか、冒頭で書かれている通報時間が翌朝であることを考えれば、〔日向が死んだ〕と考えるべきか。
Rのつく月には気をつけよう (祥伝社)  [bk1] [Amazon]
Rのつく月には気をつけよう bk1 大学時代からの飲み仲間・夏美、長江、熊井の三人は、卒業後も機会があれば集まって飲んでいた。いつも同じメンバーでは続かないので、ここ数年は誰かが友人をゲストとして連れてくるというならわしになっている。
そんな酒の席で美味いつまみと酒を楽しみながら語られる、ゲストの過去のちょっとおかしなエピソード、不可解な経験……その謎を解くのは。

くそう、そうか!! 確かに〔渚って女の名前と言われたほうがしっくりくるよな! 建築探偵の深春とかいるから、〕だまされた!!

とにかく、酒とつまみが美味そう。チキンラーメンは試してみたい。
凄い綺麗にまとまっているのだが、冷静に考えるとなんでそこまで深読み&決めつけするか、とか、その通りならそいつらもちょっと病気だろうよとか思わなくもない。みんなロマンチストすぎて鳥肌が(笑)

面白いけど、よく考えるとキモチワルイ話の数々です、たぶん。
温かな手 (東京創元社)  [bk1] [Amazon]
温かな手 bk1 大学の研究室に勤める畑寛子の同居人・ギンちゃんは名探偵。
サラリーマンの北西匠の同居人・ムーちゃんも名探偵。
人のエネルギーを吸って生きる彼らは、実は人間ではない。余剰エネルギーを吸い取ってもらうことで彼らは共利共生しているのだ。
職場や外出先で遭遇した殺人事件や騒動を、ギンちゃん、ムーちゃんは鮮やかに解き明かす。

他人の白衣を着て殺されていた研究者。自分の白衣もあったのに、何故?(『白衣の意匠』)
キャンプの最中に死んだカップル。一件心中に見えたが、不可解な点が(『陰樹の森で』)
満員電車の中で腹にナイフが刺さり死亡したチカン。しかし、男は最寄り駅より手前から乗り込んでいたらしいという、謎の行動が(『酬い』)
お互いのパートナー(食糧)を紹介しあうギンちゃんとムーちゃんの兄妹。伊豆で落ち合った彼らが向かったのは、ある老人ホームで……(表題作)
全7編収録。

難だろう、最後ですんなりまとまっちゃったというところだけ、納得いかない感じ。まぁ、元々パートナー間では恋愛感情はなかったというわけだし、残された人々のラストシーンも、まだ互いへの同情レベルなんだろうけど……。
落合冨江の最期を見ると、そうとも割り切れないものがある。一方的な別ればかりでなければ良いのだけれど。
ガーディアン (光文社カッパ・ノベルス)  [bk1] [Amazon]
ガーディアン bk1 幼い時に父を亡くして以来、勅使河原冴は、彼女に害をなそうとする者から護ってくれる不思議な存在に護られていた。冴はその力を「ガーディアン」と名付け、死んだ父に違いないと考えていた。
その力は、彼女の危険を回避するためだけに、機械的に発動する。突発的な事故にはバリアーとして。悪意ある攻撃には利子をつけて。
――では、殺意を向けてきた相手はどうなるのか?

二部構成。
第一部では、プロジェクトメンバーがガーディアンによって死んだことから、自分が「殺意」を持たれていたという事に主人公が動揺する。何故殺意を抱かれたのか? といったミステリ仕立てになっている。
わりと一般受けもしそうでしっかりしている。
それに対し第二部は、ガーディアンの力を利用する形でのサスペンス仕立て。生きるため、逃げるために敵もまたガーディアンの力を使おうとする。

どちらも意志のない「力」を、分別ある大人が利用する話。第一部で基本ルールの説明、第二部で応用編みたいな。

しかし、第二部での上位の存在への感情の気持ち悪さは、なんか『月の扉』のアレに近いような気もする。そのあたりはやっぱり石持作品なんだなぁ。
あと、全然関係ないけど、円と奈々子がなんだか百合ん百合ん(笑)
まっすぐ進め (講談社)  [bk1] [Amazon]
まっすぐ進め bk1 大型書店で見かけた背の高い美しい女性。絵画のようなその姿に川端直幸は見入ったが、おかしな点に気付く。彼女は、左手に腕時計を二つはめていたのだ。(『二つの時計』)
「幸せに向かってまっすぐ進め」と言う意味で名付けられた直幸と、過去の選択を問い続ける女・秋の物語。

酒を飲みながらふとわいた不思議な物事についての推理をする、と言う形は『Rのつく月〜』のようだが、この作品はどうも始終納まりが悪い。何でだろうと思うと、語り手である直幸の感情といえるものを感じ取ることが出来ないのだ。そんな主人公が親きょうだいの情を語るということが、なんともいえないキモチワルさを醸し出しているように思える。
推理代わりと力業なあたりも、それを増しているかも。
本当に幸せに向かってるのかよ、と思わずにいられない。

しかしそんな違和感あっての石持作品なのだろうか。ドラマティックな情の動きを、情の感じられない主人公が語る、とは。
賢者の贈り物 (PHP研究所)  [bk1] [Amazon]
賢者の贈り物 bk1 同期との鍋パーティーの後に残された女物の靴、しかし持ち主は名乗り出ず……(『ガラスの靴』)、デジタル一眼に切り替えた夫に妻が贈ったプレゼントは、何故かフィルム……(表題作)
童話や童謡、伝説や古典的名作を下敷きにした短編10本収録。

推理というよりは、ひたすら悶々思考を繰り広げる小説。
特に明確な答えが用意されているわけではなく、勝手な思い込みとも言える結論を出すところで終わっているものも多々あり。なので、すっきりしないといえばすっきりしないのだが、この悶々思考やその様は、「あー、こういう状態あるかも」と思うこともあり、ある意味リアリティがあるのかもしれない。

しかし、磯風さんの正体が謎のままだとは……何人かの磯風さんがいるのだろうけど、一切ノータッチだ! 今回のモヤモヤポイントはここだったか。くそぅ。
君がいなくても平気 (光文社カッパ・ノベルス)  [bk1] [Amazon]
君がいなくても平気 bk1 水野が勤めるディーウィとベビー用品メーカー・ベイビーバンドが業務提携し結成された共同開発チームは、ヒット商品を生み出すことに成功。しかし、祝勝会の翌日、チームリーダーの粕谷が社内でニコチン中毒を起こすという不審死を遂げる。殺人だとすれば、犯人はチーム内としか思えなかった。
水野は、同僚であり恋人である北見早智恵が犯人である証拠をつかんでしまう。
自分の身を守ることを考えた水野は、早智恵が警察に捕まる前に別れようと決意するが……。

もっと嫌な話を期待していたのだが……。わりと恋愛サスペンスとして陳腐なラストに落ち着いてしまった感じがする。
早智恵がP266で「彼氏としては、どうなのよ。」と喋ったところで、「こっちが狂人なのか!」とドキドキしたけれど、早智恵も突き抜けきれていなかったので、不完全燃焼な感じ。結局、早智恵も水野も、火サス的に魔がさした凡人だったようだ。まだ桜沢のほうが光るものがあったかもしれない。

個人的には、「自分を安全圏に置いていかに上手く別れるか」に知略をめぐらせ、最終的に水野が一人勝ちをして一番悪い奴になるか、水野が徹底的に打ちのめされて自滅する(罪を被せられるとか)、というものを期待していたのだが……。

石持作品で独特な「イヤな感じ」をもたらす情や人間的な言動が、本作では活きずに裏目ってしまった感じ。
リスの窒息 (朝日新聞出版)  [bk1] [Amazon]
リスの窒息 bk1 進学校として知られる中学校の野中栞は、帰宅した自宅内で両親達の無残な姿を発見した。予想していた最悪の事態に、栞は自分の今後の生活を守るため、あることを計画する。それは、自分自身の誘拐だった。
身代金の要求先は、秋津新聞社。以前、スクープ記事が原因で自殺者を出したことのある秋津新聞は、これ以上人命に関わるトラブルを起こすわけにはいかなかった。
読者投稿欄へのメールという形で届いた野中栞の誘拐・身代金要求に、秋津新聞社の主要メンバーたちは……。

両親の死と醜聞に、冷静にまずは今後の生活費をあるところから搾り取ろうとする女子中学生と、社の社会的な命を守ろうと誘拐事件に取り組むことになった新聞記者の駆け引き。
しかし、思っていたほど派手なやり取りがあるわけではなく、思考実験が大部分を占めていた。だから、誘拐犯側である中学生達に揺さぶりをかけるなどはなく、彼女達は最後の時まで上手くいっていると思っていたあたりはアレ。
逆転劇にドキドキハラハラというよりは、「どこで転落するこの中学生……」というイヤーなハラハラがつきまとう話だった。

新聞社側も、社の論理で対応する上層部を現場がひっくり返す――なんてこともなく、異常な状況で少女も記者たちも何かを欠いていく中、最後までフラットであり続けた者が勝利し、現場もなんら変わらないのは、さすが石持作品か(笑)

メールにすぐ対応するのが当たり前、という感覚に、中学生と社会人とで差があるのが面白かった。そういう意味では多くの偶然に支配されていた事件である。
人柱はミイラと出会う (新潮文庫)  [bk1] [Amazon]
人柱はミイラと出会う bk1 留学生のリリーは、日本で新たな橋をたてる現場で白い着物を着た人物を目撃する。ホームステイ先の一木慶子はそれを「人柱」だと言う。現代においても、土地の神と契約をする者として人柱が働いていると言うのだ。
しかし、とある現場で人柱が入る部屋からミイラと化した死体が発見される事件が起き……(表題作)
議会で議員の後ろに立ち、サポートを行う「黒衣」。とある議会で議員の黒衣が行方不明に。やがて一室から発見された遺体はしかし、消えた黒衣ではなく別の議員の黒衣だった。(黒衣は議場から消える)
ほか5本、計7本収録の連作短編集。

江戸の風習が未だ残るパラレル日本を舞台にした連作ミステリ。
「人柱」「黒衣」「お歯黒」「厄年」「鷹匠」「ミョウガの効能」「参勤交代」など、馴染みのない奇妙な風習に留学生のリリーは驚くばかり。そんな風習を利用しての事件を、「人柱職人」である東郷直海が解き明かす。

殺人も起きているけれど、謎としては日常の謎レベルの割りと小粒な印象。しかし、パラレルな日本の世界観が面白い。この本で取り上げられた以外にも、あんな風習が残っていたら…と考えるとなかなか楽しいかも。

キャラクターはいまひとつ血の通った感じがしなかったのだけれど、ラストの「イースター」のオチでのコメディっぽくなったあたりでは素直に好感が持てた(直海に)
というか、日本だけではないとなると、この世界大変そうだなー(笑)
攪乱者 (実業之日本社JOY NOVELS)  [bk1] [Amazon]
攪乱者 bk1 コードネーム「久米」「輪島」「宮古」のテロリスト3人。一般人としての生活を送りながらも政府転覆を目指し「組織」の一員として活動していた。
組織は時に、意味不明な任務を課す。
それは暴力や流血によらない方法で現政府への不信感を国民に抱かせようとするためだというが……。
レモン3個をスーパーにおいてくる、アライグマとプラスチック片を砂場においてくる、丸めた新聞紙入りの紙袋を電車においてくる――一見奇妙なその任務の真の目的は――いぶかしむ三人に答えを与えるのは、同じ組織のメンバー「串本」……。

小さなことからコツコツと――奇妙なテロ行為の顛末は。

一見何のためかわからないいたずらレベルの任務(TURNT)。組織の利益になりそうにない任務に、自分は何をさせられているのかと不安になる3人に明かされる任務の狙い(TURNU)――という、日常の謎系の方式で語られるテロ行為。
社会不安をあおる、という狙いに合致しているようながらも、やはり力業な感はある。それでも3人が色々変化していく様子にどうなるのかな、と思わされる。
それがTURNVに入って一転。彼らは仕事を「上手くやりすぎた」が故に、テロリストとしてではなく人間としての自分たちを追いつめてしまう。
……これ、真人間いないなぁ。「輪島」もあの死に際は常軌を逸していると思うし、「宮古」はアレだし。まぁ、最たるものは「串本」だが。

「串本」の役目がアレだとすると、「本当に効果あるんかいな?」的な任務がそもそも「調整」のための道具に過ぎないのではとも思えた。要するに、この一冊はまるまる、「テロ行為の話」ではなく「串本がテロ組織の『細胞』を「調整」する話」なのでは、という。そうならば、この細胞は「串本」に翻弄されただけなのかも。
また、「串本」の「調整」も、攪乱者としてより精度の高いテロリストを作るためのものか、実は敵対組織のもので「調整」をするフリをして細胞を壊すためかによっても話が違ってきそうとか、色々想像。

どちらにしても、私はこの話は「串本」という男のテロ行為によって起きた悲劇と取れた。つまり、攪乱者は「串本」。

色んな細胞が描かれれば、「組織」が見えてきて面白いかも。
それにしても石持浅海の「ナチュラルに冷血な紳士」ってののずれた感じが癖になるわぁ。この一番悪そうな役が普通に一人勝ちするのが石持浅海。
あと、ここに『扉は〜』の碓氷を投入したら何か凄いことになりそうでドキドキする。「組織」を攪乱してくれそう。
この国。 (原書房)  [bk1] [Amazon]
この国。 bk1 鎖国が解かれて以降、一党独裁の管理国家として目覚しい発展を遂げてきたこの国では、国家に対する反逆が重く、テロ組織のカリスマとなっている男・菱田を理由をつくって逮捕、公開処刑とする運びとなった。
しかし、菱田を奪還すべく組織幹部が刑場を襲撃するという噂があり、死刑執行を行う治安警察の番匠は……(ハンギング・ゲーム)
全5編のエピソードによる連作短短編集。

パラレル日本、なわけだが、どうにもパラレルだとも言いにくい何かがある。枠組みやそこで育まれる価値観が産む歪み……と言い切れればよいのだけれど、そうもいかない……。
一般的な目から見て、どれも正しいとも間違っているともいえない微妙な塩梅。双方に惹かれつつも、なかなか答えを出せずに辿り着くのが、番匠の
「この国のどこが不満だ?」
この言葉で、考えさせるのか。どんな国がいいのか、と。
二人とも死ぬことで「とりあえずの答え」は提示されることがなく、それは読者に任せられるわけだが……答えられない。

読んだ後に残る何かが、石持作品だなぁ。
八月の魔法使い (光文社)  [bk1] [Amazon]
八月の魔法使い 株式会社オニセンでは盆の暇な時期、役員相手に会議が開かれていた。暇な役員に余計な口を出されないよう、小ネタの企画で済まされるはずだったそれで、プレゼンの資料に紛れ込んだ工場事故報告書。しかしそれは、役員も存在を知らないものであった。事故が握りつぶされた可能性に役員達が混乱しだす会議。
一方、総務部のオフィスでも同様の報告書が定年間近の松本係長の手によって部長に提示されていた。たまたまその場に居合わせた小林拓真は、プレゼンのアシスタントをしている恋人が今まさにこの報告書を巡る騒動に巻込まれていることを知り、事態を把握しようと松本に掛け合おうとするが……。

結論から言うと面白かった。しかし、これは何小説なのだろう。
一通の事故報告書の表紙と、それを巡る社員の反応、そして社内の論理を駆使して何が起きているのかを推理……といったところでよいのだろうか。
知的ゲームのようで登場人物たちはマジである。会社の権力争いとはこげにおそろしかものですか。
その一方、謎を追ううちに拓真が感じた興奮は、例え同じ会社員ではなくとも読者側には感じるものがありそう。自分の仕事・会社のこと、自分に関わることにここまで真剣に考えることってあったか……と。
松本としても、拓真がそこに喜びを見出しつつあることに気付いたんだろうな。

よくよく考えると、たった一日の、会議の間の出来事をここまで読み応えのある一冊にした石持浅海凄い。
見えない復讐 (角川書店)  [bk1] [Amazon]
見えない復讐 東京産業大学。その校内では自殺の名所とされるバイオサイエンス学科の校舎があった。
そこでのある女性の自殺をきっかけに、大学への恨みを抱いた田島・中西・坂元。三人は大学への復讐を心に誓い、そのための力と資金を手にするべく会社を設立した。会社への投資を依頼された、大学OBでもある小池は、実は同じく大学への恨みを抱いている人物だった。
田島に自分と同じものを見出した小池は投資を決意。田島の会社は復讐に向けて動き出すが……。

セミの死骸をばら撒いたり(『セミの声』)、ゲームのルールから製作者の抱える殺意を見抜いたり(『求職者』)、購入したベビー服、香水、花束で罠を仕掛けたり(『プレゼント』)、自殺志願者の話からそこに潜むもうひとつの悪意を見出したり(『佇む人』)、大学が行った自殺防止対策にどう行動するかを示唆されたり(『針の山』)、抱えていた殺意をちょっとした一言で後押ししたり(『選択肢』)――そして復讐(『復讐者』)。
小さなことからコツコツと感が見られ、そのあたりは『攪乱者』っぽいかと思いながら読んでいたが、結論から言うと『攪乱者』のほうが面白かったか。ラストがなぁ……。

せっかく復讐のために起業するという、ちょっと変り種なスターをきったのだから、ラストまでその設定を活かしきって復讐を成し遂げて欲しかった。
まぁ、もしかしたらこれは、一線を越えるまでの話、というものだったのかもしれないけれど……。

田島と小池のツーカーっぷりがハンパなかったので、なんならこいつらでもっと知的対決とか見たかった。場合によってはここに優佳を投入……(笑)

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