ホワイトアウト                  新潮社  [bk1]→
日本最大の貯水量を誇るダムがテロリストに乗っ取られた。一人犯人の手から逃れた富樫は、同僚と亡き友の婚約者を救うため、ダムへと向かう。しかし、富樫には激しく降る雪という最大の敵があった。

これは面白い。すごいです。ストーリーもキャラクターも魅力があります。最後まで一気に読める面白さ。話の中に引き込まれますな。吹きつける雪の描写は本当に圧倒的なものがある。
富樫がテロリストの手から逃れ、戦っていくのですが、この話のメインはそのテロリストとの戦いではない、と思います。実際富樫がテロリストに勝つのも、偶然といったところがありますし。メインはダムの運転員としての知識を生かした脱出劇、そして何よりも己の弱さとの戦いでしょう。
富樫は自信にあふれた無敵の人というわけではなく、何度も倒れながらも過去、そして同僚の死に突き動かされて再び立ち上がる。何度も何度も自分の弱さにぶち当たりながらも、彼を立ち上がらせるのはその弱さへの思いなのかもしれない。
あのラスト。エピローグの前のあのシーンなんて、感動ものですね。今まで戦いつづけてきた富樫の心の奥底にあったものが一気に見えてくる瞬間ではなかろうか。本を読んで感動したのは久しぶりかも。
連鎖                       講談社文庫  [bk1]→
検疫所職員の羽川は、検疫所に投げ入れられた手紙から、放射能汚染食品がいまだに輸入されているのではないかとの疑いをもつ。元食品Gメンとして羽川は真相究明に乗り出す。そのかたわら、羽川は友人竹脇の自殺未遂に対する問題を抱えていた。しかし、二つの件は接点を持ち始め、羽川は危険にさらされることに。

第37回江戸川乱歩賞受賞作。真保裕一のデビュー作です。デビュー作ということで、最近の作品に比べるとやはりちょっと洗練されていないというか、ちょっと荒削りかな、という印象のある文ですかね。
しかし、この頃から一気に読める作品を書いていたんですね〜。いや、正直最初のほう数10ページはあまり気分が乗らなかったんですけど、P35以降の本格的に事件が動き出したあたりからはぐいぐい引っ張られていってしまいました。ちょっと残念かなぁと思ったのは、後半ちょっと急ぎすぎ、というか詰め込み過ぎな感じだったあたりでしょうか。
食品Gメンという、わりと珍しい職種の人間を主人公に持ってきたハードボイルド(……それともサスペンス?ミステリ?)ですが、専門知識に気おされることなく読める文は、とてもデビュー作とは……(さすがアニメのほうでキャリアつんでたってことか/笑)
ラストで竹脇と一言、なにごとも無かったかのような軽口の叩き合いでもあったら、感動友情モノの要素も入ったかもしれんな(笑)
取引                       講談社文庫  [bk1]→
公正取引委員会の審査官である伊田は、違反に対する処分に不満を示し、上部の不正を問い詰めたために目をつけられ、左遷の憂き目にあっていた。そんなある日、伊田は汚職の嫌疑をかけられる。なす術もなく、辞職に追い込まれた。そこへある所から、談合事件調査の話が持ち込まれ、伊田はフィリピンへ向かう。しかし、内偵対象が誘拐されるという事態が発生し、伊田も巻き込まれていく。

真保裕一の「小役人シリーズ」である。公取の役人だった伊田が、辞職に追い込まれた結果、内偵のためフィリピンへ渡るわけだが……私は内偵においての騙しあいのぴりぴりした展開を期待していたのだが、そうではなく誘拐の捜査がメインになってしまって……少々残念だった。なんか主人公の職種の意味が弱いのではないのだろうか。
話は、厚いのにもかかわらず一気に読めたあたりはさすがではありますが……やはり、前述した点においての物足りなさは如何ともしがたいです。
とはいえ、安心して読める一作であることは確か。やはり真保裕一は良いですな。
盗聴                       講談社文庫  [bk1]→
真保裕一のバラエティに富んだ短編集。5編収録。
「盗聴」盗聴機ハンターがキャッチした違法電波から聞こえてきたのは殺人現場の生々しい音。この事件は予想以上に大きなものとなる。
盗聴機を使った話。プロローグからしっかり伏線がはってあって、ラストには「ああ」と納得できる。短いが読み応えは十分にアリ。何気に「ホワイトアウト」と繋がってるあたり思わずニヤリ。長編にしてもいけそうだよな。
「再会」久しぶりの友人との再会。それを目前に自殺を図った妻。そのきっかけと思われる電話をかけたのは誰か。
再会の末に明らかになった罪。一人のことを誰よりも想った結果がこれか……。ある意味英輔には最大級の呪いかなあ、とか思ったり。
「漏水」堀場のもとを訪れた男は水道局員だと名乗るが、その目的は何か。
なんというか……坂道人生(笑)?水漏れがたたって陥没ってところか。
「タンデム」レーサーの辰也は雑誌に載っていた自分の昔の写真を見て、過去のある事件を思い出した。
終わり方がなんだか爽やかですなあ。血生臭くない、青春の一コマのミステリですか。人死ぬけど。
「私に向かない職業」「私」が仕事で訪れた場所には、腹に果物ナイフを突き立てられた男がいた。
真保裕一もこういう話を書くのかと驚いた。しかし、面白いこれは。この短編集の中では一番よいと思うのだが。
朽ちた木々の枝の下で             講談社文庫  [bk1]→
妻を事故で亡くし、札幌を離れ森林作業員となった尾高健夫は夜明け前の森で一人の女性を助けた。しかし彼女は何かから逃れるかのように病院から逃げ出し姿を消した。尾高は女性を探し出し真相を突き止めることに己の再起を賭け、調査をはじめる。

妻を失って傷ついた心、そして過去から目を逸らし日々を過ごす尾高が、失踪した女性を追うなかでそれらと向き合い、克服していく。明かされた真実に対し人々がすがったものとは。恐ろしいまでのリアリティがあり、自衛隊や森林などさまざまな描写が素晴らしいが、注目すべきはそこより、それによって紡ぎあげられた物語だろう。人々が最後にすがったもの。それを受け入れることによって尾高は過去と折り合いをつけることができたのだろうか。
医師の栗原と尾高のシーンがすごく良い。おそらく彼の存在がなければ尾高はあのラストに辿り着けなかったかもな。本の厚さを気にせず一気に読めた。

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