14.
「ちょっとラムネスっ!いったい、どういうことよ――――っっ!!!」
「ど、どういうことって・・・いわれても(汗)」
聞きたいのは、こちらのほうだ―――ラムネスは内心、そんなことを考えながら、ミルクに襟首を
ひっぱられ、がっくんがっくんと、身体を揺らした。
あのお見合いが終わってから数日後。アララ王国には件のシーリア王国から書状が届いた。
ラムネスはタイト王子の言葉を覚えていたため、シーリア国から正式に、縁談の断りを入れて
きたのだろうと思ったのだが・・・。
ところがそこには、ラムネスの想像とは全く真逆のことが、書かれていたのだ。
すなわち、アララ王国の第三王女ミルクに、シーリア王国の第一王子タイトが、正式な結婚を
申し入れる―――との内容であった。
「シーリアの紋章が入ってる・・・これはシーリア王家からの正式な国書だよ。」
カフェオレ女王がため息をついていった。
「理由がなければ、簡単に断るのは難しいだろうね・・・タイト王子は、シーリアの王位継承者
にして、文武両道、容姿端麗との誉れもたかい。その彼からの、正式な申し込みだから。ヘタに
断れば、彼の面子をつぶすことにもなりかねないし、アララとシーリアの今後の国交にも関わる。」
ミルクが顔を赤くしてぐぐっと唇を噛み締める。
そんな様子を見てカフェオレは、嫌味ったらしくいった。
「見合いに身代わりをつかったりしたから・・・そのツケが回ってきたんだろ。」
それを聞いてラムネスは、今回の件が思いっきり、カフェオレにはバレていたことを知る。
(まあ・・・そうだろうなあ・・)
ダサイダーにも知られていたのだ。
女王であるカフェオレに、そのことを隠しとおすのは、かなり難しいことだったろうから。
(ま、それはひとまず、置いておいて・・・)
ラムネスは思考を切り替えた。
しかし、タイトはいったい、どういうつもりなのだろうか?
あの、ダサイダーが乱入しての大騒動の後、タイトは確かに、『見合いは後からシーリアのほう
から正式に断る』といっていた。
それなのに・・・いったいどうして?
「―――どうやらあの王子は、意外にやり手だったらしいな・・・」
「?」
背後から響いた声に顔を上げると、先ほどまでは居なかったはずのダサイダーが、何時の間にか
ラムネスの背後に立っている。
ダサイダーはラムネスの襟元に絡みついたミルクの指先をそっけなくはずさせると、ラムネスの身体
を引き寄せ、ここが定位置だというように、自らの腕の下に抱き込んだ。
「『やり手』って・・・どういう意味だよ?」
無駄とはわかりつつ、その手にわずかな抵抗をしながらの問いかけに、ダサイダーは面白そうに
口の端を吊り上げていった。
「・・・つまりな。『ミルク姫』とやらが、どんな女であれ。勇者ラムネスとごく親しいというそれだけで、
シーリアにとっては結婚するに値する、価値を認めたんだろう。」
「そうだね・・・あの身代わりの一件は、ミルクとラムネスが、個人的に・・・しかも至極親しいという
ことを、シーリアに知らしめることになったんだよ。つまり、ミルクと結婚すれば・・・勇者の恩恵をも
自然と受けられる・・・そう踏んだんだろう。」
ま、国を預かるものとしては、正しい判断だと思うけどね―――カフェオレはそういって、最初は顔を
赤く・・・続けて蒼白に染めてしまっている妹に、わずかに憐れみの交じった視線を向けた。
政治的思惑も無くはなかったとはいえ、このお見合いがこんな展開を見せるとは、おそらくカフェオレ
も予測してはいなかったのだろう。
『勇者』とはいわゆる象徴のようなものだ。その名前には、『大いなる力』のイメージがまとわりつく。
当人がどんな人間であれ、とりあえず勇者の恩恵を得られるというそれだけで、少なくとも他国から
の侵略行為への強い抑止力とはなるのだ。
このタイミングで正式に申入れてきたということは、それを求めての縁談だということを、向こうも隠す
気はないのだろう。ということは、ミルク姫が身代わりであったことを、タイト王子だけでなく、国王も
知っているということになるが・・・。
「タイト・・・」
ラムネスは戸惑ったように、シーリア国王子の名前を漏らす。
今回の件でラムネスは、タイト王子とよしみとも言える関係を結んできたのだ。それゆえ、彼の
思いも寄らぬ行動に戸惑って、立ちすくんでいる。
そんなラムネスを見て、ダサイダーは舌打ちをして、心の中でつぶやいた。
(・・・どうやら・・・あの王子さまの狙いは、それだけじゃあないようだがな・・・)
あの男がラムネスに強く惹かれていること―――それはあの男のラムネスを見る視線を見れば、
嫌でもわかった。
そして恐らく・・・ラムネスの正体を知った今でも、その想いがなんら、変化を迎えてはいないことも。
だからあの男は、ラムネスがそれほど大事にしている少女となら、結婚しても悪くないと思ったに
違いない。
けれど、こんな手段を使ってまで、ラムネスと接点を持ちたいと望むとは―――どうやらダサイダーが
思っていたよりもずっと、あの王子のラムネスに対する想いには、根の深いものがあるようだ。
(―――目障りな・・・・)
どうしてくれようかと、ダサイダーは下唇を噛む。
ミルクが結婚するのは、願ったり叶ったりではあるが、それがあの王子の思惑だとすると―――
いったいどういうことになるか・・・。
考えようによっては、もっと面倒なことになるやもしれない―――そこまで考えてダサイダーは、
ひとつの妙案を思いついた。
自分的には、少々不愉快な気分にならないこともないが、それは決して悪い考えではないような
気がする。
何より、ミルクとアララ王国に恩を売っておくのも、悪くはない。
「縁談を断るのなら・・・良い方法があるぜ?」
そこにいる、ダサイダー以外の人間が、いっせいに振り向く。
それを見て、ダサイダーは面白そうに笑った。
*
数日後。
ミルク姫とタイト王子の縁談はたち消えとなり、アララ王国には元通り、平穏な日々が訪れていた。
そう。ごく、一部を除いては・・・だが。
「ラムネス・・・」
「・・・・・・」
「ラ〜ムネス。」
「・・・なんだよ。」
ダサイダーの呼び声に、しぶしぶというように振り向いた少年は、抑えきれない不機嫌な表情を
していて。
それが初めて見る少年の表情なだけに―――増して、それを浮かべさせているのが自分だと
わかっているだけに、ダサイダーはこの少年を構うのが、楽しくてたまらない。
けれどそんな表情を見せると、少年が思いっきり臍を曲げることはわかっているので、ダサイダー
は殊更真面目な表情を浮かべて言った。
「そんなに気に入らないのか?・・・俺さまとミルクが、婚約ってことになったこと・・・」
そう。数日前にシーリア王国からやってきた、ミルク姫への思いも寄らぬ縁談の申し入れに、アララ
王国は至極丁重な断りの返事を返したのだ。
そのときの、断り文句というのが。
「アララ王国第三王女ミルクは、世界を救うために勇者と共に大いなる貢献をした、戦士ダサイダーと
将来を誓い合った仲である。」
などというものであった。
この二人はお互いの顔を見るのも嫌っているので、そんなものは方便といったものではあるが、
さすがのタイト王子も、すでに決まった相手がいると言われてしまえば、身を引くしかない。
ただ、今回公の場でこのような返答をしたことで、それをすぐさま偽りと見ぬかれるわけにはいかず、
ミルク姫と戦士ダサイダーの婚約が、カフェオレ女王から国に公表される運びとなったのだ。
無論、全てダサイダーの提案に基づいたものである。
ちなみに本来なら、ミルク姫の相手はラムネスのほうが―――身代わりの件もあるし―――極自然
であるのだが、それはダサイダー自身が許せなかったため、提案の段階で却下されているのは、ほんの
余談である。
そんなわけで、ダサイダーとミルクは、ただいま表向き、婚約したての熱々カップルというような、
認識がされているわけである。
事実は全くもって違っているわけだが・・・。
ダサイダーとミルクの間に、間違ってもそのような感情がないということを、知っているラムネスだが、
それでも心中穏やかではないらしい。
共にいるときにダサイダーにのうのうと「婚約おめでとうございます。」などと告げる輩がいては、
面白いはずなどないだろうが・・・。
ダサイダーは未だ不快感を抑えかねているラムネスの様子にわずかにほくそえむと、その小さな
身体を引き寄せてその腕の中に抱き込んだ。
怒ったように抵抗する様が可愛くて仕方なくて、暴れる身体を無理矢理に押さえつけて、その頬に
唇を落す。
「俺さまにはおまえだけだって、いつだって言ってるだろ?」
嫉妬の感情を見ぬかれたことに気付いて、羞恥に赤く顔を染めて―――それでもダサイダーを
睨みつけてくる少年は、わかっていながらも、感情を整理しきれないのだろう。
初めてラムネスが見せる『嫉妬』の感情が、ダサイダーには楽しくて可愛らしくてたまらない。
もう少しだけ、この少年の初めて見せる表情を、楽しんでいたいと思わないでもなかったが、
これ以上ラムネスをつつくと、この少年のことだ―――どんな行動に出るかわからない、怖いところが
ある。
今のところは、嫉妬が元で自分の世界に帰ったなどといわれるのが嫌なのか、ラムネスはこの
世界に滞在したままである。
けれどこんな状況が続けば、そのうち、自分の世界に帰ると言い出すに違いなかった。
だからダサイダーは当初の予定通り、この件を言い出す段階で用意していた提案を、ラムネスに
持ちかけた。
「なあ、ラムネス・・・しばらく・・・ほとぼりが覚めるまでで良い。二人でどっかに、旅にでねえか?」
「?」
ダサイダーの言葉に、ラムネスが驚いたように顔を上げる。
「こんな状況で、この国にいたってうっとおしいだけだろ?・・・うんと遠く・・・・ラムネスの名前も
知られていないような、遠くの宇宙まで・・・二人でいかねえか?」
「旅ねえ・・・」
ラムネスはわずかに思案するような表情をしたが、まんざらでもない顔をした。
無論、ダサイダーには、このような状況になればラムネスが、この提案を飲むだろうことを予測していた。
そもそも今回、『ミルクと婚約』などという、自分でも不愉快極まりない事柄を了承したのは、
ラムネスにこの条件を飲ませるためでもある。
ラムネスの可愛い『嫉妬』の表情が見れるというオプションもついたが、最終的にダサイダーは、
ラムネスをしばらくの間、他の誰の目にも触れない場所まで、連れ出してしまうつもりだった。
ラムネスを他の男の側に―――しかも、ラムネスのことを憎からず想っている男のすぐ近くに、実に
数日間も置いていたという事実は、ダサイダーにとっては、人生5本の指に入るくらいの、不愉快な
出来事であった。
その不快感は、ダサイダーの中では未だ昇華しきれてはおらず―――ラムネスをしばらく間、
完全に独占出来なければ、この気分はとても収まりそうになかった。
「ふうん・・・まあ、たまには良いかもね・・・」
ラムネスは相当に、この婚約騒動に鬱屈を抱えていたのだろう―――いつもなら速攻で断ってくる
であろうダサイダーの提案に、意外にあっさりとうなづいた。
「なら、決定だな・・・」
ダサイダーは内心のしてやったりといった笑みを押し隠し、「じゃあすぐにでも出るから、おまえも
準備をしろ」といって、ラムネスに背を向けて歩き出した。
ラムネスが背後で、ぱたぱたと準備のために自らの部屋へ走り出したのがわかり、ダサイダーは
ほくそえむ。
あの愛らしい生き物を、旅の間、どのようにして可愛がってやろうか―――すでにダサイダーの
頭の中にあるのは、そのようなことばっかりだ。
何せ、宇宙船の中では、逃げ場もなければ邪魔も入らない。思う存分あの少年を、可愛がって
やれるというものだ。
(俺さまなしでは居られないような、身体にしてやろうか・・・)
あの甘い声を、愛らしい泣き顔を思い出すだけで、ぞくぞくとしてくる。
(・・・覚悟しておけよ、ラムネス?)
ダサイダーはちろりと下唇を舌で舐めると、自らも出発の準備をするために、ご機嫌に歩を進め出した。
しかし結局、最後はダサイダーの思惑通りには行かなかった。
旅の準備をしようと自らの部屋に戻ったラムネスは、そのままミルクの姉、ココアにつかまり、
今度はそのお見合いの身代わりで、えらい遠方の国まで、そのまま半ば強引に拉致されてしまった
からだ。
ダサイダーがそのことを知ったのは、それから数時間後のことではあるが、そのときは既にラムネス
を乗せた宇宙船は、遥か何万光年先まで飛び去っており。
まさしく、後の祭りであった。
おわり
あ〜・・・やっと終わった。
なんでこんなに長くなったんだ、この話しは・・・。しかも全体ギャグテイストで行く予定だったのに、
ふと気付けば、かなりシリアスモード。(まあ、オチとかトップは違うがね)
でも書きたかったシーンは、全部いれたので、珠胡さん的には満足というか、なんというか・・・。
感想・・・いただけると嬉しいです。(ていうか、こんな話しでどんな感想をかけというのだろうか?
私でも困るな(笑))
まあ取り合えず、もし最後まで読んでくださった方、待っていてくださった方がいたら、ありがとう
ございましたv
でもラムネはネタが尽きることはないんで、またこりずに書きます〜v
H16.8.5